第101話 翼人たちとの別れ
何とか風の邪神ストラの討伐に成功した望子たちは、手元に残っていた数少ない
それから一週間、自分たちを襲う脅威が望子たちによって取り除かれた事によって、
『いやぁ、それにしても……まさか黄色の風の元凶が邪神だったなんてねぇ……良く討伐出来たもんだよ』
先々代頭領にして、現頭領ルドの祖母であるスピナが彼女用にと皿によそられた野菜の盛り合わせを啄みながら、しみじみとそう口にして、
「あぁ、そうだな……あの時、邪神の仕業だとは思わなかったとはいえ、俺は仲間たちを優先し、貴女たちに全てを委ねてしまった……本当に、すまなかった」
それに同調する様にルドが、広場に用意された席に座ったまま望子たちに深く頭を下げた。
近くには付き人のアレッタやブライスもいたが、余計な口を挟む事無く彼に倣う。
するとウルは、あー、と声を上げつつ、手をひらひらと振りながら苦笑し、
「……気にしねぇでくれよ、あたしは今回何にもしてねぇからな……頑張ったのはミコとローア……ついでにフィンってとこか?」
洞穴で気絶していただけの自分を嘲る様にそう言って、冗談混じりな口調でフィンに話を振ると、
「ついでって……ボク割と死にかけだったんだよ? どっかの鳥たちのせいでさぁ……」
すっかり傷の治った彼女は、そんな風にぼやきながらウルを睨んだ後、その視線を端で縮こまる一人と一頭にスライドさせる。
「うっ……ご、ごめんなさい……」
『グ、グルォ……』
今回、邪神の支配下に置かれるという何とも情け無い醜態を晒してしまったハピとエスプロシオは、とことん俯いて小さくそう呟いていた。
「で、でもみんなぶじでよかったよ。 とりさんもしおちゃんも……ねー?」
そんな彼女たちを慰め、空気を変える為に望子が、首をこてんと傾け自分の傍で食事をとる
『『『クルルゥ!』』』
理解しているのかどうかはともかく、三体の小さな
「ふふ、仲良しさんね。 そういえば話は変わるけれど……貴女たち、明日ここを発つのよね?」
一方、その微笑ましい光景を見ていたルドの母、レラが温和な表情で尋ねると、焼き魚を豪快に頭からかじっていたウルが、ん? とそちらを向いて、
「……あぁ、随分長く世話になっちまったからな。 一応あたしらにも目的はあるし、何よりこいつが……」
一旦それを噛みちぎって咀嚼し、ごくんと飲み込んでからそう言って親指をフィンの方へ向ける。
その先で彼女はその青い目をキラキラさせて、ミュージカルかとばかりに浮かび上がり、
「
望子と記憶を共有しているが故に、頭の中にある青い海の情景を浮かべながら異世界の海に想いを馳せ、
「あはは、そうだね……」
とんでもなく上機嫌なフィンに、若干引き気味の望子が苦笑いでそう答えており、
「……こんな調子だからよ」
ウルは呆れた様子ではぁと溜息をついて、レラへ視線を戻していた。
「はは、確かに
そんな中、見た目通りと言うべきか、野菜ばかりを口にしているルドの父、ルイーロがそう告げると、
「んー、つってもなぁ。 連日の宴で充分楽しませて貰ったし、さっきも言ったがあたしは何にもしてないし、ハピはあんなだし、フィン……は聞いてねぇな。ミコ、ローア、お前らはどうだ?」
ウルはあくまでも今回の勝因は望子たちにあると主張し、未だにへこんでいるハピと、話を碌に聞いていないフィンをスルーして望子とローアに話を振る。
「え、わたし? うーん……」
望子は今回の一件での報酬など特に考えていなかった為、何がいいかなと腕を組んで思案し始めた。
その時、目覚めてすぐにしっかりと
「あぁ、それなら我輩、あの怪物……
邪神によって洞穴の中にも外にも湧いていた
「……残骸? 確かに、ドロドロに溶けたとはいっても骨や牙、爪なんかは多少残っていたから、一ヶ所に集めて処分するつもりだったんだけど……あれが欲しいのかい? もしかして、触媒にするとか?」
一方ルイーロが、変わってるねと苦笑しつつも、目の前にちょこんと座る白衣の少女に聞き返すと、
「……まぁ、そんなところである。 それで、許可して貰えるのであろうか?」
この場で言う事では無いと判断したのか含ませる様な言い方をし、ローアは現頭領の許可を得んとする。
「処分する予定の物を引き取ってくれるというんだ、何の問題も無い。 そもそも、俺たちが戦っていたあの怪物を全滅させたのもローアだったんだろう? なら、最初から所有権はそちらにある。 持っていくといい」
彼女の問いかけに答える様にルドが頷きながらそう言うと、ローアは満面の笑みを見せて、
「うむうむ! 我輩はそれで以上である!」
一応、見た目の事を考えているのか、酒では無く果汁をごくっと飲み干し嬉しそうに話を終わらせた。
「わたしは……なんだっけ、はっぱの……」
その一方で、漸く考えが纏まった望子が何かしらの名前を思い出そうとしていた時、
「香草? それとも薬草かしら?」
葉っぱと聞いたレラが、悩める少女に二つ程選択肢を用意してやると、
「! どっちも! おりょうりにつかうのと、いるかさんのぽーしょんがすくなくなってきたから!」
パッと表情を明るくした望子は、身を乗り出して彼女の提示した選択肢を二つとも欲しいと口にした。
「ふふ、勿論良いわよ。 それじゃあ明日の朝、一緒に採りに行きましょうか」
「うん!」
レラは本当の娘に向けるかの様な優しい目をしながらそう提案し、望子も心底嬉しそうに頷いている。
「……そういえば、君たちの
そんな折、ふとルイーロが望子たち五人に視線を走らせながらそう言うと、
「ひーらー? あぁ、回復役か……やっぱいるかな?」
ウルは何のこっちゃと首をかしげていたが、ドルーカのギルドマスター、バーナードがそんな
「まぁ普通はいるだろうね。 今回だって、フィン君が作ったというあの
少しの間ふむ、と思案していたルイーロだったが、
「……ま、そうだな。 考えとくよ」
ウルはいつか加わるのだろう
――――――――――――――――――――――――
そして翌日の昼頃、集落の門には望子たち五人と頭領一家だけで無く、集落中の
「この道を真っ直ぐ下れば、半日もしないうちに……港町ショストに辿り着く筈よ」
先代頭領であるレラが、丁度夕刻には着くかしらねと山道を指差してそう言うと、
「港町! うーん、楽しみー!」
フィンがここからでは見える筈も無い、異世界の海が見えているかの様な発言をする。
「何から何まで世話んなったな……おいハピ、いつまで落ち込んでんだてめぇは」
代表してウルが挨拶をしようとしたのだが、彼女の視界の端に未だウジウジと塞ぎ込んでいるハピの姿が映り、呆れた様子でそう口にすると、
「だって……望子にまで手をあげようとしてたらしいじゃない私……もう本当に合わせる顔が無くて……」
眉を垂れ下げ、明らかに気落ちした様にぶつぶつと呟くハピに、とてとてと望子が近寄っていき、
「と、とりさん。 わたし、きにしてないから、ね?」
「望子……!」
彼女の亜麻色の翼に触れながらそう言うと、ハピはパァっと表情を明るくさせて望子に抱きついていた。
『エスプロシオもそうだけど……あの子に流れる魔力も随分変わったね。 邪神の力を受けたという割には、とても澄んだ黄緑色の魔力に見えるよ』
そんな中、少し離れた位置で彼女たちを見ていたスピナが孫の肩に留まったまま瞳を光らせそう呟くと、
「俺には良く分からないが……彼女が美しいというのは誰よりも理解している。 やはり俺は……」
ルドが彼女とは少しズレた意見を口にしつつ、ハピに近づいていこうとした為、
「……恩人相手に、無理矢理な求婚は駄目だよ?」
「わ、分かってるさ……」
既に超えたとはいっても、自分とほぼ同格の父から咎められた彼は、大人しく引き下がった。
「……ミコ、ローア。 あの時はごめんなさい。 そして本当に……ありがとう。 私たちを救ってくれて」
一方、謹慎を解かれたファジーネが、喧嘩を売ってしまった二人に対して頭を下げつつ謝意を述べると、
「うぅん、きにしないで。 ね、ろーちゃん」
「うむ、今回の事は我輩たちにとって良い経験となった……ファジーネ嬢、お主にとってもきっと」
望子もローアもニコッと笑って、それぞれがファジーネを気遣う様にそう告げると、
「……ふふ、そうかもね」
あの一件以来、自責の念から笑えていなかった彼女も、二人に倣い笑顔を見せていた。
集落に住んでいる、大小様々な
「そんじゃ、そろそろ行くか……んぉ?」
そんなウルの声掛けと共に、出立しようとしたのだが、その瞬間、ルドを先頭に
「――我ら
ルドの言葉を皮切りに、集落中の
彼女たちは、それらに応える様に銘々手を振りながら別れの言葉を口にして、
「うん! またね!」
望子も最後まで精一杯手を振りながらそう言って、彼らに再会を約束し、一時の別れを告げる。
一行は、ガナシア大陸でかつて最も栄えた港町、ショルトを目指し、リフィユ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます