第91話 翼人たちの会合
食事の後、勇者一行はスピナたちの家に泊まって、自然と抜け落ちたのだという羽毛の詰まった布をベッドにして眠り、一夜を明かした。
そして翌日の朝、ルドからの提案で集落の者たちに正式な協力者として紹介する為、定期的に行われているらしい彼らの会合に参加する事になった。
太陽が丁度真上に昇る頃、ルドの案内で大樹の回廊を下り、幹の中央辺りにある会議室の様な場所に通され、ここで待っていてくれ、と言われた望子たちは、並べられた椅子に座って大人しく待機している。
しばらくすると、部屋に一人、また一人と
そして部屋の中央にある机を中心に並べられた椅子が全て埋まった頃、ルドがゆっくり立ち上がり、
「さて、今日の議題だが……例の風について一つ進展があった。 諸君らにも伝えておこうと思う」
初めて彼女たちと会った時とは全く異なる、頭領としての一面を見せながらそう語り出した彼の姿に、ちゃんと
「おぉ、ついに……!」「しかし一体どの様な?」「過度な期待はしない方が……」「待て、あそこに座ってるのは誰だ?」「あぁあれは昨日の客人の……」
一方、彼の発言を耳にした
――その時。
「――静粛に」
レラが全員に向け威圧する様にそう言った事で、先代頭領である彼女の強さも怖さも知っている
「すまない
ルドは不甲斐ない自分をフォローしてくれた母に感謝し、協力者を紹介する為、望子たちを片手で差し示しつつそう声をかけた。
日本にいた時でさえ、クラスの自己紹介で苦戦した経験のある望子は、ガチガチに緊張しながらも、
「ぁ、えっと……みこ、です。 これでも……ぼうけんしゃです、よろしく」
途切れ途切れの言葉で何とか最低限度の情報を伝え頭を下げた後、ふへぇと息を吐いて再び席についた。
それに続く様に、ウルたちも昨日レラ相手に
そんな彼女たちのちぐはぐな自己紹介を受けた
「
先程より尚一層ガヤガヤとし始めてしまったが、最後の一人がハッとなって、指を嘴に当てそう言った事で、どうにか落ち着きを取り戻していた。
「各々言いたい事も聞きたい事もあるだろうが……結論から言えば、進展とは彼女たちの事だ。 これは昨日、俺や
そう語る彼の声以外には、何も聞こえてこない程の静寂と緊張の中にありながら、
「……その娘たちの手を借りる、とでも言うの?」
ルドの言葉を遮って、高いとも低いともつかない声で割り込む者がいた。
「……その通りだが。 俺の決定に異論があるなら聞くぞ? ファズ」
「……!」
一方ルドはその声にも特段癇に障った様子は無く、至って冷静にそう返し、ファズと呼ばれた雌の
(あれ誰?)
そんな折、つい気になってしまったフィンがなるだけ小声で、レラとは違い彼女たちの近くにいたルイーロにそう問いかけると、彼はあぁ、と身を寄せて、
(彼女はファジーネ。 僕たちの集落の頭領は世襲制じゃ無いというのはもう聞いたかい?)
彼女の名前を答えつつ、自分たちの長の襲名制度について知識はあるかと聞き返した。
(そういやそんな事言ってた様な。 それが何?)
思い出したのかそうでないのか、よく分からない反応をしつつ、彼女が再度首をかしげて尋ねると、
(もしルドがいなければ……と、それだけの事だよ)
ルイーロは、分かるだろう? と口数を減らしてそう言ってフィンに苦笑を向けた。
(あー、二番手かぁ。 そりゃ突っ掛かってくるよね)
それで大方理解したフィンは、うんうんと頷きながら肩を竦め、今にも口論を始めそうな二人に視線を戻したのだった。
「……これは私たち
丁度フィンが目を向けたその時、ファジーネが声に確かな怒りを纏わせてそう告げたが、
「おい! 頭領に向かってその口の利き方は何だ!?」
席に着いていた他の
「いや、構わない。 俺とこいつの仲だからな。 だがファジーネ、一つ言っておくが、彼女たちは一人残らず俺やお前を上回っているぞ?」
だがルドは、その
「は……?
するとファジーネは極めて懐疑的な表情を浮かべながらも、視線をルドから望子たちに移し沈黙する。
「あぁそうだとも。 だからこそ俺たちは、彼女たちからの協力の申し出を受け入れたんだ」
ルドは我が意を得たりと頷いて、押し黙る彼女を説得しつつも、この場にいる全員に向けてそう告げた。
「そんな
再び彼女がルドを睨みつけ、そう問い詰めようとしたその時、彼女の視界の端からガタッと音がして、
「あー、横から失礼。 我輩から一つ良いのであるか? ルド殿、そしてファジーネ嬢」
「どうした? ローア」
「……何よ」
自己紹介を済ませてからは大人しく座っていたローアが、我慢出来なかったのかすくっと立ち上がって、論争を繰り広げていた二人の間に口を挟んだ事で、彼らはそちらへ反応し、口論を止めた。
ローアは二人が静かになった事を確認するやいなや、こほんとわざとらしく咳をして、
「もし我輩がそちらの立場なら……いくら
まるで役者かとばかりに大袈裟な動作でゆっくりと彼女に近づき、ローアがこうやって立ち上がっても尚高い位置にあるの顔を見て問いかける。
「……えぇ、そうね」
彼はこの年齢におよそ似つかわしくない口調で語る眼前の少女に違和感を覚えつつも、粛々と返した。
するとローアは何が嬉しいのか、一見人当たりの良さそうな笑みを浮かべてうむうむと頷き、
「そこで提案なのであるが……そちら側の代表者二人と、我輩とこのミコ嬢の二人で仕合ってみるというのはどうであろうか?」
「ぇ」
「……はぁ?」
さも妙案だという様にそう告げた彼女に真っ先に反応したのは、ファジーネでは無く望子であり、一瞬何を言っているのか理解出来なかった彼女も、少し遅れてその鋭い嘴から声を漏らす。
「ちょ、お前何を勝手に……」
望子の安全第一なウルはそれを止めようとしたのだが、既にファジーネは腕組みをして思案しており、
「……良いわ、やろうじゃない。 けど、仕合うのは私一人。
丁度良いハンデでしょう、と付け加えて、彼女の提案を受ける形となった。
(勇者と魔族なんだけどね……)
――ちなみにフィンは、何も知らないファジーネを憐む様な視線と表情で見つめていたのだが、彼女がそれを知る事は無い。
「くはは、実に
そんな彼女に、一見すると
「えぇ、望むところよ……先に下で待ってるわ」
ファジーネはそう言いながらもゆっくりと立ち上がり、彼女たちに先んじて部屋の外へ出て行った。
彼女に続いて他の
「ろーちゃん、どうしてこんなこと……」
明らかに不安げな表情を
「ミコ嬢、自分の意思を通したいのであれば、言葉などよりも力で示すのが一番の近道なのであるよ。 少なくとも……この世界ではな」
彼女としては珍しい極めて真剣な顔で、人差し指をピンと立てながら淡々と説明する。
「ぅ……わかった、やるよ……」
そんな彼女に押し負けた望子は、渋々といった様子で息をつきながらそう口にした。
「うむうむ。 何かあっても我輩がいるゆえ、
「はこ……? ま、まぁがんばろうね。 ろーちゃん」
残念ながら
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