第86話 取り持つ小鳥
「
そんな彼女の提案を耳にしたルドは目を見開き、その小鳥を
だが、言い訳がましくそう
『この痴れ者が! 自分から不必要な諍いを起こしておいて……なんだいその言い草は! 漸く目上の者を敬える様になって、あたしもあんたの両親も頭領を任せられると判断してその座に就かせたっていうのに……あたしの目が曇っていたのかねぇ!?』
玉の様に小さな瞳を輝かせ、遥かに高い位置にあるルドの顔を見上げながら叱ると、
「い、いやそれは……」
ルドは極めてバツが悪そうに、自分を怒鳴りつけるその小鳥から目を逸らした。
「ねぇ、お説教中申し訳無いのだけど……」
そんな折、二人の会話に割って入ったハピがそう声をかけると、うん? と小鳥が反応し、
『あぁすまないねぇ、
その小さな身体でぺこっと頭を下げる様な動作を見せて、彼女……スピナはそう名乗った。
「……私はハピ。 まぁ仲間たちは後で紹介するとして……貴女が手打ちを求める理由を聞きたいのだけど、話してくれるわよね?」
ハピがご丁寧にどうも、と礼を返してルドと同じく立ったままスピナを見下ろし問いかけると、彼女は片方の翼をルドに向け、
『そう難しい話では無いよ。 こんな戯けでも、
心なしか慈愛に満ちた表情を浮かべたスピナは、ハピを一心に見上げてそう告げた。
「……
それに待ったをかけた当のルドが、ギロリと鋭い視線を地面に立つ小鳥に向け、静かな声音で尋ねると、
『……そう、言ったんだ。 ちゃんと聞き取れているみたいで良かったよ』
スピナは何を今更という様に、ひゅいっと一風変わった溜息をついて彼に視線だけを移す。
「っ! そんなはずは無い! 現に俺は親父にも
そんな祖母の態度が癇に障ったのか、自分の力はとっくに父親をも超越しているのだと主張しつつ、鋭利な爪をビシッと望子たちに向けるやいなや、
「あぁ? やんのかコラ」
「上等だよ、へいへーい!」
「全く、蛮勇であるなぁ」
ウルは彼を威圧し、フィンは手をくいっとやって挑発し、ローアはやれやれといった様に溜息をつく。
「み、みんな、だめだよそういうこといっちゃ」
望子だけは、彼女たちを諫めようとあわあわしながらもそう口にしていたが――。
『だからあんたは戯けだと言うんだよ。 これから戦おうって相手の力量を測る事もしない……いや出来ないの間違いかね。 言っておくけれど、あんたはこの娘たちの誰一人にも勝てないよ。
孫の言い草に呆れたスピナは、望子たちに視線を向け一瞬きらっとその小さな瞳を光らせたかと思うと、彼女は羽繕いをしながらルドを諭す様にそう言った。
「なっ……! あんたの方が余程戯けた事を言ってるじゃないか! あんな小娘どもにまで俺が……!」
それを聞いたルドは、くわっと目を見開き、高い位置から祖母に指を差してそう叫ぶと、望子は自分の事だと思いビクッとし、もう片方の小娘であるローアは心底余裕そうにくははと笑っている。
「とっ、頭領! 相手は、スピナ様で……」
流石にこの物言いはまずいと判断したのか、これまで沈黙を貫いていたアレッタがルドのこれ以上の狼藉を止めようとしたのだが、
「黙れ! ここまで虚仮にされておめおめと引き下がるなど……俺にも
ルドは彼女の制止を遮る様に叫び放ち、アレッタを睨みつけた後、再び望子たちを害そうと爪に魔力を集めようとした。
『……いい加減におし。 あんたのそれは単なる馬鹿げた自尊心さね。 あたしをこれ以上怒らせないでおくれ、自分の手で孫を葬るなんてあたしはしたくないんだよ……分かったら、この子たちに謝罪しな』
だがその瞬間、先程彼を怒鳴りつけた時とは全く異なる冷ややかな怒声でそう語りかけたスピナに、
「ぐ、ぅ……わ、分かった、分かったよ……お前たち……あ、あぁいや、貴女方には大変な迷惑をかけてしまい……本当に、すまなかった……」
これだけの体格差があっても尚怯えてしまっていたルドは、お前たちと言おうとした途端スピナから威圧する様な魔力が放たれた事に驚き、即座に言い直してハピたちに謝罪し、それに続いて二人の部下も深く深く頭を下げた。
「まぁあたしは別に……ハピ次第じゃねぇか?」
ウルは特段興味も無さげにそう言って、ハピに先を促す為に視線を向け、望子を始めとした仲間たちも一様に賛同して頷いた。
話を振られたハピは少しの間、うーん、と思案する様に唸っていたが、
「……そう、ね。 貴方みたいな木偶の坊に付き従ってくれる人たちもいる様だし……これに懲りたら、他者を見下す様な発言や行動は控えなさいな」
彼女は強い蔑みの念を込めつつも、言って聞かせるかの如くそう口にした。
「あ、あぁ……! ありがとう……!」
「ぅわ」
するとルドは何故か晴れやかな笑みを浮かべ、会った時と同じくハピの手を握ろうと近寄ったが、嫌悪感を強めた彼女に華麗に躱されよろけてしまっており、
(惚れ直してねぇかあいつ)
(駄目みたいだね)
それを見ていたウルとフィンは、こそこそと身を寄せ合いながらそう呟いていた。
『あたしからも謝らせておくれ。 本当にうちの孫がごめんなさいねぇ。 それで、貴女たちはこれからどうするんだい? この山を越えるのかね?』
そうして一段落ついた頃、スピナが改めて望子たちに深く謝罪し、彼女たちの今後について尋ねると、
「そうそう、ボクたちこの先の海に行きたいの!」
フィンが代表して意気揚々と答えた事に、望子たちは思わず良い意味で苦笑する。
『成る程ねぇ……それなら早めに進んだ方が良いかもしれないよ。 ここ数年、この山は少し厄介事に見舞われてるからねぇ』
そう語るその声までもが沈んでいる事を、心の底から不思議に感じたウルは、
「厄介事? 何かあったのか」
気になったものをそのままにしておくのもモヤモヤする為、彼女の話に出て来たそのワードを抜粋し、尋ねてみる事にした。
するとスピナは、彼女たちに話すべきかどうかを思案している様だったが、
『そうだねぇ……まぁせっかくだから、行きしな話そうかね。 もう少しであたしたちの集落に着く事だし』
パサッと軽く飛び上がり、魔術も行使しているのだろう、ゆっくりと羽搏きながらも空中で
「ほーん……じゃ、そうするか? ミコ」
「うん、そうしよっか」
代表してウルが
その後、スピナを除くルドたち三人は、罪滅ぼしだとばかりに野営の片付けを手伝い、ほんの少しだけ望子たちと打ち解け、彼らの案内の元、山頂にある
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