第84話 求婚する翼人
舞い降りた
「つ、
別段頬を染めたりする事も無くそう言うと、
「美しい亜麻色の翼、透き通る様な
ルドはバッと立ち上がり、声を高らかにしてハピの容姿を褒めちぎる。
すると、それを聞いていた望子を除いた仲間たちはぱちぱちと軽い拍手をしながら、
「
「いやはや、
「みこはボクたちに任せて幸せになってねー」
声を揃えて一様に、彼女たち二人を祝福するかの如き発言をしてしまっていた。
「あ、貴女たち……!
未だその手をルドに握られた状態のハピは、我慢の限界が近いのかこめかみをひくつかせている。
一方ルドは、そんなウルたちの言葉を真に受け、
「さぁ、貴女の仲間たちもああして祝福してくれている事だし、早速祝言を挙げるとしよう! ブライス! アレッタ! 俺はこのハピを妻に迎えるぞ!」
最早決定事項だとばかりにハピに詰め寄り上機嫌でそう捲し立てた後、部下二人の名を呼び宣言した。
「おお、ついに頭領が身を固める決意を!」
ブライスと呼ばれた雄の
「……頭領、いくら何でも性急すぎます。 もう少し節度を持って、段階を踏んでからがよろしいかと存じます。 まずは清く正しい交際から……はぁ」
かたやアレッタと呼ばれた雌の
そんな中、先程からずっとその小さな口を閉じていた望子が、ゆっくりとウルに近寄り、
「……おおかみさん、とりさんけっこんするの?」
彼女の服の端を
「あー、まぁこの調子だと……そうなるかもな。 つっても向こうが勝手に言ってるだけで、ハピにその気はねぇんだろうが」
望子がどういう答えを求めているのか彼女には分からなかった為、是とも非ともとれる言い方で答えた。
「そっ、か……うぅん、それでも……」
するとそれを聞いた望子は、
「ミコ……?お、おい! 何でそっちに」
そう言って手を伸ばして止めようとしたウルの視線の先には、ハピとルドの方へ向かう望子の姿が。
「ちょっといい加減に……望子?」
一方、初対面の異性に手を握られ続けている事に嫌悪感さえ覚え始めたハピが、いつの間にか近寄って来ていた望子に気がついた。
「あ、あのっ……」
望子は極めて控えめに、されど確かな決意を持って話しかける。
――ハピでは無く、ルドに。
「何だいお嬢さん。 悪いが俺は……いや俺たちはこれから忙しいんだ。 用があるなら後で」
当のルドは、妻の仲間なのだろうとは理解していたものの、大した興味も無さそうにそう言おうとした。
「――らないで」
「……何?」
だが、そんな彼の言葉を遮る様に何かを小さく呟いた望子に、聞き取れなかった彼は聞き返す。
「とりさんを、とらないで……!」
望子はすぅっと息を吸い、彼の切れ長の鋭い目をしっかり見ながら、震える声でそう口にした。
「……とりさん? 何の話だ」
聞き覚えの無い名前が出てきた事に、全く理解出来ないといったルドはカクッと首をかしげる。
「とりさんは、わたしのだから……ずっといっしょにいたんだから……とらないでっていってるの!」
少しずつ涙目になりながらも、望子は自分の意思をはっきりと伝え、
「望子……!」
ハピはそんな望子の言葉に、あまりの嬉しさに思わず感極まり泣きそうになってしまう。
「……お嬢さん、謝るなら今の内だぞ? 俺は……そういうふざけた冗談は嫌いなんだ」
「……っ」
するとルドは漸く理解した様で、鋭利な爪を携えた手をパキパキと鳴らして、その眼光を持って望子を威圧せんとし、望子はその場から後ずさる事は無かったものの、少しだけ恐怖で震えてしまっていた。
「貴方ねぇ……!」
怯える望子の様子に、怒り心頭といった具合でルドを睨みつけ、言葉をぶつけようとした瞬間――。
「――おいおいフィン、聞いたか? あんなふざけた
「あは、面白ぉい。 碌に人の話も聞けないなら巣に引き篭もってればいいのにねぇ」
いつの間にか望子の作ったサンドイッチをその手に持って食べながら、ウルとフィンが邪悪な笑みを浮かべてそう口を挟んだ。
「……何だと?」
ルドはそれを聞くやいなや、望子から二人へ視線を移しつつ、先程より明らかに怒った様子で凄み、
「貴様ら! 何という口の利き方を……っ!」
「我らが頭領を馬鹿にしているのか!?」
アレッタとブライスも、二人の嘲る様な言葉に激昂し、槍の先をそちらへ向ける。
――その瞬間。
「あ? 事実だろうがよ。 同情するぜてめぇら。 そんな馬鹿野郎に付き従ってんだもんなぁ」
ウルがブチっとハムとチーズが挟まったサンドイッチを噛みちぎって、二人を憐むかの如き発言をし、
「正直ボクはどっちでもよかったんだけど……子供脅すなんて論外。 ハピが幸せになれるとは思えないよ」
フィンは望子に手招きをして、おーよしよし、怖かったねぇ、と抱きしめながらそう言った。
一方望子は、フィンの豊かな胸に顔を埋める様にしてぐずぐずと泣いている。
するとルドは少し俯き、その鋭い視線だけをウルたちに向けると、
「……今なら、謝れば許してやる。 祝言にも招待してやろう。 俺は、寛大だからな」
そんな風に言いつつも、言葉の節々から感じられるその尊大さにウルはイラッとしていたが、
「これは異な事を言う。 そもそも諍いの原因は貴様であろう? 理解できるのであるか? 害鳥よ」
突然ローアがウルたちを援護する様に、嘲笑しながら自分の頭をトントンと指で叩いてそう告げた。
「……もういい、分かった。 これは、試練だな?」
「「「は?」」」
一方、それを聞いたルドはここで漸くハピの手を離してゆっくりと嘴を動かしそう告げると、何のこっちゃという様に口をぽかんとさせるウルたち三人。
ルドはバッと片腕を横に広げ、それと同時に控えていたブライスとアレッタが槍をハピ以外に向けて、
「『魚を
「あぁ? 何を言ってやがる」
突然そんな事を語り出したルドに、ウルは苛つきながらそう聞き返す。
(そんな
その時、何故かフィンだけは、んーと思案し首をかしげていたのだが。
「ハピを手に入れる為にはお前たちを蹴散らさなければならないという事だ。
ルドは、ザッと一歩前に出つつ頭領に相応しい魔力も有していたのだろう、純血としては随分と規模の大きい透明な淡い緑色の風が彼の周囲に吹き荒れる。
ルドがフィンに抱きついたままの望子に鋭い爪を向けて、戦闘の幕開けだと言わんばかりにそう言い放とうとしたその時――。
「『
ルドの後ろに立っていたハピが、底冷えする様な低い声でそう呟いた瞬間、
「なっ……うっ、ぐおああああああああっ!?」
彼女の右の翼爪から放たれた真空の砲弾がルドを襲い、彼は何本も何本も木々を薙ぎ倒しながら吹き飛ばされてしまった。
(……今のもしかして、あん時のやつか?)
それは、かつてウルの口を塞ぐ為に放った風の弾丸が、名付けられた事で強化された魔術だった。
「「とっ、頭領ぉおおおお!?」」
突然の事態に、一瞬呆気にとられたブライスとアレッタは、ハッと意識を取り戻したかと思うと、バサっと大きな翼を広げ、悲痛な面持ちで叫んで彼がいるだろう方角へ飛んでいこうとしたのだが――。
「黙りなさいな」
「「……っ!?」」
先程よりも更に冷え切ったハピの声に、二人は思わず言葉を失い、彼女から目が離せなくなってしまう。
――それも無理はないだろう。
ハピの表情は今や、魔王や邪神もかくやという、静かで激しい怒りの感情に彩られていたのだから。
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