第55話 いざや領主のお屋敷へ
「はい、これで申請出来ました! 皆さんはこの瞬間より、
「おっ、
バーナードの話を聞き終えた望子たちは、早速受付にて
「うふふ、益々のご活躍を期待しています! ミコちゃんも、
「うん! がんばるよ!」
受付から覗き込む様に望子へ笑顔を向けるエイミーに対し、一方の望子は両手を薄い胸の前でグッと握りしめて、可愛らしく決意を示していた。
そんな中、このやりとりを聞いていたギルド内の酒場で飲食を嗜んでいた冒険者たちが、
「
新たな
「よーし! 今日は呑むぜぇー!」
「お腹減ったー!」
それを受けたウルとフィンが、我先にと喜び勇んで酔っ払いの仲間入りをしに行く一方で、
「全くあの
「あはは、げんきだね……」
かたやハピはそんな二人に呆れて溜息をつき、かたや望子は苦笑いで、早速酒を嗜む二人を眺めていた。
「ふふ……あっ、そういえば……ハピさん、ミコちゃんも、ちょっとお話しいいですか?」
その時、ふと何かを思い出した様にエイミーが、未だ受付前に残っていた望子たちに声をかけると、
「? 何かしら」
「実はですね? 領主様が今回の決闘の件について、直接話を聞きたいと仰られてまして……」
首をかしげて聞き返すハピに対し、エイミーはその旨が記されているのだろう書類を捲ってそう告げる。
「領主って……あぁ、クルトさんね。 それは構わないけれど、日時は指定されてるの?」
「出来れば早めに、と伺ってます。 何やら頼み事もある様で、近日中にお屋敷の方へ赴いて頂ければと」
エイミーが手元の書類をトントンと纏めつつ、ハピの問いかけに対して懇切丁寧に答える中、
「たのみごとってなぁに?」
少し高い位置にある受付に、ん〜、と唸って両手と顎を乗せた状態で望子が尋ねてきた。
「それが、分からないの。 ギルマスが話を聞いたらしいんだけど、内容はハッキリと言わなかったそうよ」
ハピがそんな望子を優しく抱きかかえる一方、エイミーは困り気味の笑みを望子に向けたままそう答え、
「そうなんだ……とりさん、どうしよう」
それを聞いた望子が自分を抱っこしているハピに意見を求めると、彼女はニコッと微笑んで、
「望子が決めていいのよ?
冒険者たちと一緒に盛り上がり、完全に出来上がっているウルたちを見遣ってそう口にする。
「あ、あはは……えっと、じゃあ……あした、みんなでいってみる?」
ハピの言葉に苦笑しながらも、望子は自分なりに思案した後でこてんと首をかしげて提案し、
「そうしましょうか。 朝早くだと失礼かもだし、お昼頃にしようかしらね。 先方に伝えておいてくれる?」
「はい、お任せ下さい!」
そんな望子の提案を受けたハピは目を細め、望子の頭を爪を収めた手で撫でながら、エイミーに告げた。
「それじゃ、私たちもご飯食べましょう。 あの人たちが奢ってくれるみたいだし」
「うん! たのしみだなぁ」
その後、望子たち二人も一夜の宴に加わり、いつの間にかアドライトやバーナード、果てはリエナやピアンまで参加していたその宴は、望子が眠気に負け、ハピが彼女を宿まで運んだ後も続いていた。
――だからこそ。
「あ"ー……気分悪ぃ……」
「お腹苦しい……さすってみこ……」
明け方まで残っていたウルとフィンは、それぞれ重度の二日酔いと食べ過ぎでベッドに転がっており、
「馬鹿ねぇ、貴女たちは……」
「ふたりともだいじょうぶ? きょうはやすんでる?」
昨日よりも更に深い溜息をつくハピに対し、望子はあたふたとしながらも二人を心配して声をかける。
そんな望子の様子を見たウルは、ベッドに転がったまま自分の革袋に手を伸ばし、
「ま、待ってくれ、二日酔いにもあれが効くんじゃねぇかなって……っと、これこれ」
フィンに分けてもらっていた瓶詰めの
「……お、だいぶ楽になった。 やっぱ便利だなこれ。 ほらフィン、お前も」
明らかに先程より顔色が良くなったウルは、自分より更に苦しそうなフィンの口に水玉を押し込み、
「んぐ……むぐむぐ……あぁ、ちょっと軽くなったかも……ほんと、ちょっとだけど……」
フィンが寝転がったままそれを
「だいじょうぶ? とりさんとふたりでもいいよ?」
あくまで二人を労わる姿勢を崩そうとしない望子がそう提案すると、彼女たちはググッと起き上がり、
「……過飲過食で行けませんはまずいだろ。 いくら見知った相手っつっても、な?」
「それに……! ハピと二人とか許容出来ないよ……! 這いずってでも行くからね……!」
ウルが望子の頭に手を乗せ微笑む一方で、フィンは望子に抱きつきつつもハピをジロッと睨んでいた。
「……? むりはしないでね?」
ウルはともかく、フィンの言葉の意図は良く分からなかったが、望子は取り敢えず二人を気遣い、
(何かするって思われてるのかしら……心外だわ)
その一方で、貴女じゃあるまいしとハピはフィンを睨み返しながら、脳内でそう呟いていたのだった。
結局全員で出発した望子たちは、
「ここが領主様のお屋敷ね」
ふとそう呟いたハピの言葉通り、無事にシュターナ家の屋敷へと辿り着く事が出来ていた。
そんな望子たち一行が近づいてきているのは見えていたのだろう、細身の女性警備兵がタタッと近寄り、
「ようこそ、
彼女たちの
「あぁはいはい……これでいいかしら」
「おねがいします……ふたりとも、はやく」
身分証明を要求されるかも、と考えあらかじめ準備していた望子とハピはスッと
「後で整理しねぇとな……あぁあった、ほら」
「はいこれ……ぅ、もう一個食べとこ……」
他二人は随分もたついており、漸く見つけ出して警備兵に渡すも、フィンは喉奥から何かがせり上がってきたのか、指先に例の水玉を浮かべ口に運んでいた。
「……はい、確認出来ました。 お手数をお掛けしまして、大変申し訳御座いませんでした」
そんな折、確認を終えて
「だいじょうぶだよ。 おしごとおつかれさまですっ」
不意に望子が彼女の手を自分の小さな手で包む様に握り、ニパッと笑みを浮かべてそう言うと、
「は、はい! 有難う御座います! では、開門!」
彼女はその小さな手を握り返し、顔を赤らめながらも他の警備兵に声をかけ、鉄製の柵門を
「じゃあ、行きましょうか――」
そして、先頭にいたハピが振り返ってそう言おうとしたが、先程までそこにいた筈のウルとフィンは、
「……色目使ってんじゃねぇぞ」
「沈めるよ? 血の海に」
「ひっ!?」
いつの間にか赤い爪と球状の渦潮をそれぞれが展開して望子と接触した警備兵を脅しており、赤らんでいたはずの警備兵の顔は真っ青になってしまっていた。
「……馬鹿な事やってないで行くわよ」
「ぅぐぇっ! 引っ張るなぁ!」
「爪! 爪が食い込んでるぅ!」
そんな二人に心底呆れ返った様子のハピが、わざわざ自分の手の可変式の爪を表に出して、叫ぶ彼女たちを引き摺りながら屋敷へ入っていくのを見つつ、
「あはは……また、かえりにね?」
「ぁ、はっ、はいっ! ごゆっくり!」
望子は警備兵にヒラヒラと手を振ってから、ぎゃあぎゃあと騒がしい三人を追いかけていく。
見るからに豪華な屋敷へと続く道を歩いていると、四十代程に見える壮年の男性が扉の前に立っており、
「お初にお目にかかります。 当家で
見目麗しい
「ご丁寧にどうも。 こちらの紹介は不要かしら?」
一方、四人の中では唯一礼節というものを感覚で理解しているハピが、粛々と礼で返してそう尋ねると、
「えぇ、構いません。 既に伺っておりますので。 当主がお待ちです、どうぞこちらへ」
カーティスと名乗った白髪の
望子とフィンが、ひろーい、すごいねー、などと言っている間に、長い廊下の先にある、他の部屋と然程変わらない意匠の扉をカーティスがノックし、
「クルト様、
「あぁ、通してくれ」
扉の向こうにいるのだろう主人に声をかけると、聞いた覚えのある若い男声が彼女たちの耳に入った。
――カーティスが扉を開けるとそこには。
いかにも貴族の部屋といった風な、カッチリしつつも絢爛さのあるその部屋に入ると、クルトが大きな机に添えられた肌触りの良さそうな椅子に座り笑顔を見せる一方、傍らに立つ従者のカシュアがこちらに……正確には
――そして。
「……おや、昨夜あれだけ食って呑んで酔ってたのにちゃんと来たね。 感心感心」
「お菓子食べるかい? 結構美味しいよこれ」
「……リエナ? それにアド? 何やってんだここで」
何故か魔道具店主のリエナと
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