第37話 勇者の料理と闖入者
サーカ大森林で出会った
その道中、日が暮れてきた事もあり、ドルーカへ到着する前に野営を敢行する事となった望子たちは、なるだけ快適に過ごせる様に、それぞれが役割を担って行動する。
望子は母親から教わった簡単な料理を、フィンとウルは魔術を行使し、料理に必要な水と火を用意、ハピは風を利用して草原の一部を刈り取り、キャンプ地となる場所の確保、そして視力を活かした見張りを担当した。
「ねぇみこ、それなぁに?」
八歳にしては随分と手際良く調理を進める望子に、フィンが興味津々の様子で尋ねる。
「ぇへへ、おむれつだよ。 とかげさんがたまごとかおさとうとか……おりょうりにつかうものたくさんわけてくれたから、わたしでもじょうずにつくれるとおもうんだ」
望子は顔をフィンの方へ向けながらも、手は止めずに器用に調理を続ける。
「そういやこの鞄に卵とか入れてたんだよな? 腐ったりはしてねぇみたいだが……」
火もつけ終えた為手持ち無沙汰となっていたウルが、
「あっ、えっと……とかげさんがこっそりおしえてくれたの。 そのかばんのなかにいれたものは……じかんが、とまる? って」
望子がレプターの話を思い出しながらそう答えた。
「時間が……? すげぇな、まさしく魔法の鞄ってわけか。 異世界っぽいなぁこういうの」
「そ、そうかな……? よくわかんないけど……おおかみさんがいうならそうなのかな」
そんな取り留めのないの話をしていると、上空で見張りをしていたハピが降りてきて、
「異常無し、って言うまでも無いわよね」
すとっ、と着地してそう言った。
「まぁそうだな。 魔物がいるわけでも、盗賊? みたいなのが襲ってくるわけでもねぇし……結構平和だよな
ウルもハピの言葉を受け、拍子抜けだと言わんばかりに肩を竦める。
「……そんな事言ってるとまた追いかけられるよ? ……蜂とか」
森の中での追いかけっこが若干トラウマになっているフィンが、じとっとウルに視線を向ける。
「わ、悪かったって……ほ、ほら、そろそろいい匂いしてきたぜ? なぁミコ」
蜂の件に関しては、多少の負い目を感じていたウルは露骨に話題を変え、鼻をすんすんと鳴らしながら望子に声をかける。
「うん、そろそろできるよ! みんな、おさらよういしてくれる?……あ、すぷーんもね!」
「おぅ、任せとけ!」
「ふふ、望子の料理楽しみだわ」
「宿じゃあずっと味気ない感じだったからなぁ。 襲撃直後だったししょうがないけど」
そんな風にわいわいしながら食事の準備に取り掛かる四人。
そうこうしている内に準備も終わり、草原の真ん中で、ウルがどこからか持ってきた丁度良いサイズの岩を削って平らにした椅子に座り、
「それじゃあ、いただきます」
「「「いただきます!」」」
望子の号令と共に、全員が合掌し、木製の皿とスプーンを持って望子特製オムレツに手をつける。
「……うめぇ! うめぇぜミコ!」
「ほんと!? よかったぁ……」
最初に声を上げたのはウルだった。
彼女の嬉しそうな声と表情で、望子はほっと安堵の息を漏らす。
「甘めの味付けなのね。美味しいわ」
「うん、けちゃっぷはなかったから……おさとうとたまごのあまさだよ」
ハピも爪を収めたその手で器用にオムレツを口に運び、望子に笑顔を向ける。
「みこは料理上手なんだね! ますますお嫁に欲しいよ!」
「お、およめさん……? わ、わたしがじょうずっていうか、おかあさんのおしえかたがよかっただけだから……」
フィンの突然のプロポーズに困惑しつつも、望子は母親からの教えだからこそと謙遜した。
そんな時、喉が渇いたウルがこれまた木製のコップを手に取り、すんすん、と匂いを嗅いでから、ごくっと音を鳴らして一口に飲んだ。
「……おっ、これも美味いな。 ちょっと酸っぱいけど、甘めのオムレツと合うな」
「むぐ? ……うん、おねえさんといっしょにとったきのみのなかに、みかんみたいなのがあってね。しぼったらおいしいじゅーすになるっておしえてくれたんだ」
「流石に森の主、詳しいのね」
望子がウェバリエと一緒に採取した物の一つである、蜜柑に似た柑橘系の果物、マンダは食用としては酸味が強く、しかし絞る事で少し酸味が飛び、摂取するに足る味となる。
長く森に住むウェバリエは、採取した木の実や茸を一つ一つ丁寧に、自分が知る限りの美味しい食べ方や保存方法を望子に伝えていた。
……最も、望子たちは保存方法として最適解となる、
しばらく料理と会話を楽しんでいた望子たちは、ほぼ同時に食事を終え、料理を担当した望子と、自在に水を操るフィンが皿洗いをし、ウルとハピはそれぞれ卓越した嗅覚と視覚で再び見張りを開始した。
明日のご飯も楽しみだなぁ、ぇへへ、がんばるね、とそんな呑気な会話をしながら望子とフィンが片付けをしていた時、
「……ねぇウル、あれ」
「あれ? あれって何だよ……ん?」
ハピがきらっと目を光らせながら、ウルに尋ねると、彼女も目を細めてハピの言う方向を見る。
「なになに? どーしたの? いい匂いにつられて動物でも来ちゃった?」
「ぅおっ! いきなりひっついてくんな!……ほら、あれだろ? ハピが言ってんのは」
「んー……? あれって……」
片付けもほぼ終わらせていたフィンが、ウルの肩越しに二人が見ていた何かを見ようとする。
「……人? しかも女の子じゃない? 何でこんな時間に……?」
彼女たちの視線の先には、ふらふらとした足取りで少しずつこちらへ近づいてくるフードを被り、何か鞄の様な物を背負った女の子の姿があった。
辺りはすっかり暗くなっており、その姿がはっきり見えていたのは、梟の夜目を持つハピのみである。
「さぁな。 だが確かに、魔物も動物もろくにいねぇっつっても一人であんなふらふら歩くか普通」
「……声、かけてみましょうか。 流石に魔族って事も無いでしょうし……」
ウルもハピも不審がってはいたものの、先手を取ってしまおうと声をかける事にした。
「……おい、そこの! こんな所で何してやが---」
ウルが代表してそう叫ぼうと声を出した瞬間、その女の子は、その場にずさぁっとうずくまり、
「うわぁああああ!すいません! すいませんでした! 私みたいな弱虫が調子乗ってすいませんでしたぁ!何でもするで食べるのだけはどうかぁああああ!!!」
と、間髪入れずに弱音を吐き捨ててきた。
「「「えぇ……?」」」
それを一から十まで聞いていた
「みんな、なにして……え?」
そこへ、片付けを終えた望子が合流し、完全に土下座の姿勢で固まる女の子を見て、
「……うさぎの、みみ?」
「「「え?……あっ!?」」」
「ひ、ひぇええええ、そうですぅ、私は哀れな兎ですぅうううう、どうかお許しをぉおおおお」
望子は見たままの状態を口にしたのだが、女の子につられて思考が止まっていた
うずくまったまま何故か謝り続け、そのあまりの勢いで被っていたフードが外れた女の子の綺麗な銀髪から生えていた、長く白い、二本の兎の耳に。
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