第34話 人魚印の蜂蜜水
「おーーーい! だーいじょーぶー?」
「……お、来たか。 結構早かったな。 あたしはそんなでもねぇぜ。 ハピは……割と重傷だな、今は寝てるよ」
ウェバリエが二人を呼んでくると言って、戻っていった方からちゃぽんと音を立てて泳いできたフィンと、二人を連れてきたウェバリエ。
フィンの腕には、先程の爆発によりすっかり怯えてしまい、ぎゅっと彼女に抱きついた望子がいた。
……フィンが心なしか上機嫌なのは決して見間違いでは無いだろう。
望子はゆっくりとした動きでフィンから離れ、布袋に頭を乗せて未だ眠ったままのハピに寄り添って、
「……お、おおかみさん……とりさんに、なにがあったの……? なんで、こんな……」
その横で胡座をかいて座るウルに尋ねた。
「あー……なんつーか、その……」
二人の怪我は全て、結果的にウルの炎とハピの冷気によるものであり、つまりは。
(自爆したとは言いたくねぇなぁ……もうちょい様になる言い訳を……)
「敵を倒そうとして自爆したんでしょ? いつから二人は爆弾になったの?」
「え……!?」
「おいこらぁ! 爆弾とか言うな……ん!? お、お前、何で知ってんだ……!?」
あっさりと真実をつまびらかにしてしまったフィンを怒鳴りつけるウルだったが、何故その事を、と驚愕する二人の表情が固まる。
「何でも何も、ぜーんぶ聴こえてたもん。ハピの叫びも、ウルの怒鳴り声も、その後のキミたちの話し声もね。おめでとうウル、火、出せる様になったんでしょ?」
フィンは何でもないかの様に、鰭の形をした耳をぴこぴこさせながらそう言った。
「ま、マジかよ……!?ほぼ正反対の位置からだぞ……!?お前やっぱりあの時……!」
「ぅん?」
ウルの言った『あの時』とは、望子の中から現れた何かが、フィンを治療……もとい修繕した時の事である。
(あれの力でフィンは強くなった……そう考えて良さそうだな。ますますあれの正体が分かんなくなったが……)
何の事?と首をかしげるフィンを見ながらそう考えていると、
「ね、ねぇ、どういうこと?ばくだんって?とりさんはだいじょうぶなの?」
フィンの一言では理解しきれなかった望子が涙を浮かべてウルに問う。
「あ、あぁ、大丈夫だぜ。怪我はしてるが、休めば治るって。いや直る、だったか?」
軽い口調で語るウルを見て、そんなに
その後、すぐにフィンの方へ向き直ったかと思うと、
「いるかさん。さんにんともけがしてるし、『あれ』あげたらどうかな?」
と、何かをフィンに提案する。
するとフィンはぽんと手を叩いて、
「あぁ、そういえばそうだね。ちょうどいいかも。……実験台に」
にやりと妖しい笑みを浮かべてそう言った。
フィンがぼそっと呟いた随分と物騒な言葉を聞き逃さなかったウルとウェバリエは、
「待て待て!お前今なんつった!?あたしらに何する気だ!?」
「あ、貴女たち蜂蜜を採りに行ったんじゃないの……?私はともかく二人は本当に重傷だから、危ない事は……」
かたや身を乗り出して怒鳴りつけ、かたや怪訝な表情を浮かべる。
「だーいじょーぶだって!蜂蜜関連ではあるから!効果は保証しかねるけどね!」
「効果ぁ!?しかも保証しねぇだと!?」
「薬か何かなの!?ちょっと待って普通に怖いわ!」
手や首をぶんぶん振りながら拒絶する二人を見ていた望子が、
「ふ、ふたりとも、とりさんがおきちゃうから……それ、わたしもなめてみたからだいじょうぶだよ。ね、いるかさん」
騒ぐ二人を諌めつつ、フィンが両手の人差し指に一つずつ浮かべた黄金色の液体の混ざった水玉を見ながらそう言った。
「ほら、みこも言ってるよ?ウェバリエはともかく、キミも飲まないの?みこがああ言ってるのに?」
やたらと勧めてくるフィンの言葉にイラッとしたウルは、
「……だーっ!分かったよ!飲んでやるよ!言っとくけどな!ミコが言ったからだぞ!実験台になるつもりはねぇからな!?」
そう叫び放ち、外側に薄い膜の張ったその水玉を乱暴に受け取ったウルは、一思いにそれを口に含んだ。
「おー、豪気だねぇ」
「ウ、ウル、大丈夫なの?ちゃんと蜂蜜の味する?」
呑気なフィンとは対照的に、味の心配までし始めるウェバリエ。
しばらく口にしたそれをころころ転がした後、ぷち、という音がウルから聞こえ、
「……うっ」
「「「う……?」」」
呻き声ともとれるウルの小さな呟きに、ハピを除く全員が集中する。
「……ぅうっめえっ!!」
「……え?美味しいの?普通に?」
そう叫んだウルに驚きつつ、ぽかんとした表情をたたえて尋ねるウェバリエ。
「そりゃそうだよ。だってこれ、採った蜂蜜と水を混ぜただけの
呆れて物も言えないという風な表情のフィンに対して、
「貴女がおかしな言い方をするから……!ってウル!貴女身体が光ってるわよ……!?」
「うっまぁ……ん?ぅおっ、なんだぁ!?」
ウェバリエが苦言を呈そうとした途端、口に残る甘みを未だに味わっていたウルの全身が、ぽぅっと淡く輝く金色の光の粒子に覆われる。
「さてさて、どうなるかな〜?」
フィンはこの後ウルがどうなるのか、今か今かと楽しそうにしていた。
「うわぁああ……ああ?……ん?何も、起きてねぇ……のか……?おいフィン、今のは一体ーーー」
自分の身に起ころうとしている何かに焦り、叫んでいたウルは、何も起こらなかったにも関わらず、何かに満足した様にうんうんと頷いているフィンに尋ねようとした。
「……ウ、ウル! 貴女……治ってるわよ、傷が!」
「……へ? マジか!? ……うわマジだ! なんでだ!?」
その時、ウェバリエがウルの身体を見ながらそう言うと、彼女はばばっと自分の身体をまさぐって、具合を確かめる。
「よぉし、成功! 思った通り!」
「やったね、いるかさん!」
未だ困惑する二人をよそに、ハイタッチなんてしながら喜びを分かち合っている望子とフィン。
「み、ミコちゃん? それにフィンも……これってもしかして……」
「そ。傷を治す薬だよ。……
殆ど確信を持って尋ねたウェバリエは、想定通りの答えが返ってきても尚驚いていた。
「……これ、冒険者なんかがよく携帯してる
そう語るウェバリエに、
「まぁ、これボクが魔術で出した水だからね。
と軽い口調で言いながら、もう片方の指先に浮かべていた水玉をウェバリエに渡す。
「い、いただくわ。……あら、本当に美味しいわね、これ」
そんな風に味わっていた彼女の身体も同じ様に光に覆われ、その光が消える頃には、彼女の身体には傷一つ残っていなかった。
「凄い、わね……。 街で売ったらひと財産築けるんじゃないかしら……」
そう言いながら首や上半身をひねって状態を確認するウェバリエ。
だがフィンは、その言葉には反応せず、じっと自分の革袋の中にある何かを手に取り見つめていた。
(……レプが「絶対に必要になる」って言うから買ったのに……。ボクが作ったやつの方が効果ありそうだもんなぁ……。ストックも確保出来ちゃったし……)
そう呟く彼女の視線の先には、王都を出る時に
彼女が『
「……フィン? おいフィン!」
布袋を覗いていたフィンに、すっかり元気になったウルが声をかける。
「ぇ、あ、なに? あぁ元気になったの?良かったね」
「え? あぁ、お前のお陰で……じゃなくて! ハピはどうすんだって話だよ! 聞いてたか!?」
どうやら、フィンが考え事をしている間に、未だ目を覚まさないハピについての話し合いが始まっていた様だった。
「……あぁ、はいはいハピね……。眠ったままでも
「「雑!!」」
思わずウルとウェバリエの声が重なる。
「え〜、だって原因自爆なんでしょ?それで目が覚めないって言われても……ぅん?どうしたのみこ」
そんな風にぐちぐち言っていたフィンの服の端をくいくいと摘んだ望子が、
「いるかさん、はちみつわけてくれる?」
と上目遣いで言ってきた。
「!うん!勿論!そもそもこれはボクとみこが二人で採ったものだからね!」
そう言って、指先から蜂蜜を含ませた水玉を出現させ、望子に手渡すフィン。
「ありがとう、いるかさん……よいしょ」
望子はお礼を言いながら、眠ってままのハピの頭のすぐ傍にしゃがみこみ、水玉を……その小さな口に含んで、ぷちっと膜を割る。
「「「……?」」」
望子が何をしようとしているのか分からず、ただ見守るだけの三人の前で、望子はハピの整った顔に手を添えて---。
「---んぅっ」
「「「!!!??」」」
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