第二章
第27話 サーカ大森林
ルニア王国王都、セニルニアにて行使された禁断の秘術、
大将である幹部ラスガルドには敗北したものの、望子の中から現れた《それ》の圧倒的な力によってかの者は討伐され、一週間程身体を休めた彼女たちは、目立たぬ内に王都を出て、次の目的地を目指していた。
馬車に乗るでも無く徒歩で王都を出立して早二日、道中で野営をしたり街道に紛れ込んだ魔獣を相手取ったりしながらも、望子たち一行は現在、やたら鬱蒼として薄暗いという他無い森に辿り着いており、
「森かぁ……綺麗な川とかないかな」
何十年何百年とここにあるのだろう、随分と背の高い木々を見上げながら
「……ここはサーカ大森林。 ルニア王国領土内の、古くからある森だそうよ。 冒険者や兵士たちが自分の力を試すのにうってつけの場所だったとか。 一時足を休める為の小屋なんかもあるらしいし、その近くに川ぐらい、あるんじゃないかしらぁ……」
一方、
「……とりさん、どうしたの? ねむいの?」
そんな彼女を見ていた望子が顔を覗き込む様にして尋ねてきた事で、自分を気遣ってくれた嬉しさと、上目遣いの望子の愛らしさに微笑みながら、
「……私、梟でしょ? 起きてられなくはないんだけど、やっぱり夜の方が調子いいみたいなの」
望子の綺麗な黒髪を梳く様に撫でつつ、若干の夜行性思考を匂わせてそう答えた。
「うーん……あっ。 そうだとりさん、いっかいぬいぐるみにもどる? ねむかったらねてていいよ?」
すると、少し唸って思案していた望子が、おいで? とばかりに腕を広げて提案し、それを受けたハピは、魅力的な提案ねと承諾しようと――。
――したのだが。
「……いいんじゃねぇの? ミコはあたしらで守るからよ。 今は寝てろって、な?」
「そうだよ! ぬいぐるみだからって無理は良くないよ! はいおやすみ!」
フィンだけで無く、
(……この子たち、望子を一人……いや二人占めするつもりね。 なんて強欲で貪欲な
脳内でとことん悪態をつくハピだったが、彼女たちに言われずともその眠気は限界を迎えかけていた。
「……はぁ。 望子に変な事、しないでよ?」
「へ、変な事って何だよ!」
「しないよそんな事! 多分!」
ウルはともかく、フィンの言葉には不安しか
「……望子、ごめんね。 お願いしていい? 何かあったら、すぐに起こしていいからね」
目線を望子の高さに合わせつつ、その小さな手に自分の手をそっと添えてから提案を受け入れる。
「うん! それじゃあ……『もどって、とりさん』」
望子が彼女の言葉に頷き、添えられた手をぎゅっと握ってからそう唱えると――。
――ぽんっ。
そんなお決まりの間の抜けた音と共に、ハピの身体が梟のぬいぐるみに戻り、望子の腕に収まった。
「……レプん時も思ったけど、シュールだよなこれ」
「さっきまで喋ってたのにいきなりぬいぐるみだもんね。 でもこれやんなきゃ信じて貰えなかったよ?」
冒険者登録の時、と付け加えてウルの言葉に同意しながら首をかしげるフィンに対して、
「……まぁ、そうだな」
最初にぬいぐるみから
――それは冒険者ギルドへの登録の証であり、町などへ入る際の身分証明にもなる、冒険者の
彼女たちは、レプター経由で王都の冒険者ギルドのギルドマスターであるノーチスという細身の男性に頼み込み、それを取得していたのだった。
魔族たちの王都襲撃から僅か五日後の事だったという事もあり、途方もない量の事務処理に追われていたが、レプターさんの紹介なら大丈夫ですよね、と望子を含めた四人全員の登録を許可してくれていた。
――無論、望子の力を見せた上で。
実を言うと、ノーチスはその力の異常性と望子の容姿……特にその黒い髪と瞳を見て何かに気づいていた様だったが、ゴゴゴ、という音が聞こえてきそうな程に威圧してくる
「大丈夫! 大丈夫ですから! 何もしませんから!」
早いとこ終わらせてしまおうと考えて、早急に登録に必要な試験を受けてもらった事で、異常な程スムーズに彼女たちの冒険者登録は済んでいたのだった。
短い間に色々あったなぁ、とウルとフィンが昔を懐かしむかの如く数日前の出来事を思い返していると、
「……ふたりとも、そろそろいこう? はやくしないとよるになっちゃうよ」
またも上目遣いとなっていた望子が、ウルの服の端をクイッと
「そうだな! 何が襲ってきても守ってやるぜ!」
「色々いるんだろうけど、ボクたちなら楽勝だよ!」
「……うん! よろしくね!」
鬱蒼とした森の入り口で、えいえい、おー! とそんな掛け声と共に団結する望子たち。
――ここは、サーカ大森林。
かつて、王都の冒険者や兵士たちが最初にぶつかる大きな大きな壁であり、魔物や魔獣、果ては魔蟲に至るまで、所狭しと跋扈する……不倶戴天の見本市。
――
「……」
そんな中、森の入り口で
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