第16話 ぬいぐるみの名は
「ぅう……ぐすっ」
「よしよし、もう大丈夫よ。 もう力の使い方も分かったんでしょう? 突然いなくなったりしないわ、ね?」
「ぅん……」
この世界における元の姿に戻った
その一方で、長机を挟んで
「……じゃあ、お前は異世界から勇者が喚び出されるってのを知ってたから、ミコを勇者っつったのか」
「……あぁ、そうなる」
あの様な神々しい魔力が他にあろう筈も無い、そう付け加えた彼女に、んなこたぁ聞いてねぇよと
彼女の話のいくつかは聖女から聞いた話とも被っていたが、中には初耳となるものもあり、
「でだ、あたしらもお前みたいのと同じ……その、何だ、
自分たちが喚び出された王の間でも、今は亡きリドルスからそう呼ばれていた事は覚えているが、改めて確認する様に同じく
すると
「そうだな、正確には……
椅子の上で胡座をかく
自分たちに関する確かな情報を得た
「それよりみこだよ。 さっき言ってた……
あくまでも望子の力の事であり、
「
つらつらと語りつつも、無論これは冒険者や宮仕えの魔術師の場合であり、家事や土木作業といったものに使われる事もあるのだという。
その説明を聞いていた
「……ん? じゃあミコは違うんじゃねえのか? あたしらは別に、ミコが使える魔術を撃ち出してるって訳じゃねぇ……よな?」
そう言い終わる頃には若干自信無さげに声を落としてしまっており、そう思うよな、と二人の仲間に話を振ると彼女たちも頷いた為、一先ず安心していた。
その一方で、彼女の疑問に何と答えるべきか、と顎に手を当て思案していた
「……そうだな。 正確には違うのだろうが……広義的に言えば
そんな彼女たちの会話に既に刺々しさは感じられないが、それは他でも無い望子の口から自分たちに何が起こり、それを誰が解決へと導いてくれたのかを聞いたというのが大きいのかもしれない。
――だが、彼女が忠誠を誓っていたのは誰からも愛され、誰よりも信頼されていたかつての『賢王』であり、決して自らの復讐心の為だけに民の命を犠牲にしてしまう様な『愚者』では無く……だからこそ、声を荒げる事も彼女たちを責め立てる様な事もしない。
その後、話題が途切れてほんの少しの静寂が部屋を包んだ頃、あぁそういえばと
「まだ貴女の名前、聞いてなかったわよね。私には
翠緑の瞳を妖しく光らせながら、望子たち三人にも彼女の名前を伝える良い機会だとばかりに尋ねる。
一方の
「……あぁ、そうだな。 申し遅れたが、私はレプター=カンタレス。 馴染みの者たちからは『レプ』と呼ばれている。 貴女たちも気軽にそう呼んでほしい」
自己紹介に加えて自らの愛称と、それを口にする許可まで出した彼女は、あっ、と何かに気がついた。
「そういえば……貴女たち三人には正式な名前は無いのだったか? 冒険者登録には名前が必要だからな、今のうちに考えてはどうだろうか」
そう、登録というからには名前は必須事項であり、それぞれを模した動物の名にさん付けした望子専用の呼び名ではまずいだろうとレプターは判断する。
「まぁ……確かになぁ。
「そうねぇ、
「……ボクは気に入ってるんだけどなぁ、
望子が付けてくれた呼び名を否定する意図は無いのだとばかりに、『あれ』という表現を用いていた。
一方、視線を向けられた当の望子は首をかしげて何も分かっていない様だったが、それを見ていたレプターは彼女たちの様子に合点がいき、
「では、
クスッと微笑んでそう提案すると、
するとレプターは、先程までの
「そうだな、
パッと顔を上げるやいなや、種族名を告げた時と同様に一人一人に視線を向けて名付けていった。
そんな彼女がつけた名前を、脳内で繰り返し咀嚼した
「ま、いいんじゃねぇか? あたしはウルだな」
「そうね。正直思いつかないし、ハピを名乗るわ」
「ボクもフィンでいいけど……いるかさんって名前を捨てるわけじゃないからね、みこ!」
「う、うん?」
それぞれが良好な反応を見せる一方、突然フィンから話を振られた望子は、何の事だろうと困惑する。
そんな異世界での新たな名前に、少しだけ喜色ばんでいる様な彼女たちを見ていた望子が、
「あ、あの」
「? どうしました、ミコ様」
てくてくとレプターの元へ近寄って遠慮がちに話しかけると、彼女は目線を望子に合わせて聞き返す。
「えっとね? さっきのおれいができてなかったから、あらためてとおもって……」
レプターは望子の拙いその言葉でも充分に全てを理解出来ており、お気になさらずと首を横に振って、
「当然の事をしたまでです。 貴女はいずれ、この世界を……いえ、とにかく私がそうしたいと思った事を成しただけですから。 礼などいりませんよ」
「うぅん、それでも――」
片膝をついたままそう告げたのだが、望子はどうしても彼女に感謝したいらしく、スゥッと息を吸って。
「ほんとうにありがとう……『とかげさん』!」
――ぽんっ。
「「「「!?」」」」
望子が彼女をそう呼んだ直後、部屋に響いたその音は……
「……ぇ」
驚きのあまり、口をぱくぱくさせる望子と
「「「「えぇーーーっ!!?」」」」
緑の生地に金色の毛糸が背中側に縫い付けられ、何故か翼も生えた蜥蜴のぬいぐるみが転がっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます