第15話 勇者は人形使い
望子が手を離した時点で水晶玉から放たれた神々しい白い光は随分と弱まっており、目が
「てめぇ、さっき危険はねぇって――」
そんな彼女たちを代表して
「へ、兵長! 今の光は一体!?」「ご無事ですか!? お怪我は……」「貴女たち、一体何をして……!」
……自分たちとは種族からして違う存在であるものの、それでも彼女の強さや国に対する忠誠心に惹かれていた兵士たちは多く、野暮だとも取れるその行動も彼女を慕っているからこそ。
(やっぱり……はぁ、めんどくさ)
一方の
「あー、えっとね――」
どう言い訳したものかと
「……いや、大丈夫だ。 水晶の効果を知ってもらう為に
すると、何故か
(……へぇ)
それは奇しくも自分が考え、口にしようとしていた言い訳と殆ど同じだったからであり、望子と他二人以外の
「……そ、そうでしたか」
兵士たちは上司の様子に多少の違和感を覚えはしたものの、この方が無用な嘘をつく筈も無いと判断したのか、何かありましたら直ぐにお声掛けを、と言い残してぞろぞろと部屋を後にする。
その後、兵士たちが全員退出し扉の前からも気配が完全に消えた事を確認するやいなや、
「……もう、大丈夫だろう」
「……何、やってんだ? お前」
そんな
「数々のご無礼をお許し下さい、
――瞬間、望子を優しく抱っこしていた
「……っ!!」
ルニアという……国民の殆どが
……だがそんな彼女にさえ二人の動きや魔術の行使は全く目で追えず、ただただ硬直するしかなかった。
「……なんでキミが知ってるのかな?」
「言葉は選べよ蜥蜴野郎……死にたくなきゃな」
彼女の発言一つで豹変し、鋭い眼光で睨みつけながらこちらを威嚇する二人に
「ちょ、ちょっとまってふたりとも!」
修羅場と化していた三人の間に割って入り制止の声を上げたのは、
望子がそのまま
「ミコ! 危ねぇから下がってろ!」
「そうだよ! 何されるかわかんないよ!」
声を荒げて
「……っだ、だいじょうぶだよ。 このひとは……たぶん、わるいひとじゃないよ」
さも親が子に言い聞かせるかの様に、あくまで優しい声音で二人を説得せんとする。
……しかし、望子に危険が及ぶ可能性がほんの少しでもあるのなら、たとえ望子本人の言う事であってもそれを聞くわけにはいかない……そう考えた
「何の根拠もねぇだろ! いいからこっちに来い!」
思わず語気を強めて叫び放ってしまった事で、ひぅっ、と望子は身体を震わせ怯えを露わにした。
その様子を見た
『……いいからしずかにはなしをきいてっ!』
ぽぽぽんっ
目に涙を浮かべる望子の口から何故かエコーの様に響くその言葉が発せられた瞬間、三人の方から随分と間の抜けた……そんな音がした。
「「……え?」」
図らずも望子と
何故なら、三人の
「ぇ、あ、みん、な?」
望子はゆっくりとぬいぐるみたちに近寄っていき、それらをその小さな腕で抱えてから、
「……ど、どうしたの? みんな……なんで、もどっちゃったの……?」
訳も分からず涙目になる望子の様子を見て、蚊帳の外となっていた
……彼女は一瞬、流石勇者様と称賛しようとした。
自分の言葉を聞き入れようとしない仲間の
だが、怒るどころか哀しむ様子さえ見せている望子に違和感を覚えた
「ミ、ミコ様……? これは、一体どういう……」
言葉に詰まりながらも怪訝な表情で尋ねる
「……ぅ、み、みんなは……もともと、ぬいぐるみ、なの……っ、ここにきて、からっ……おねえ、さん、みたいにっ……なってて……っ」
何とか自分たちが置かれている状況を話しきり、その後はまたポロポロと涙を流してしまっていた。
(そうか、この方は――)
そんな望子の言葉を聞いて、
「ミコ様、貴女は……
「ぅ、ぱ、ぱぺっと……?」
優しい声音で告げられた言葉に、濡れた瞳で彼女を見つめつつ反応を返す望子を見た
(しかし……この反応だと元々
駐屯兵長を務めているという事もあり同種と比べて知識も豊富で、様々な冒険者や傭兵たちとも触れ合う機会の多い彼女は、自らの属する
だが彼女の記憶にある
「……ミコ様、もしも私を信じていただけるのであれば、彼女たちを戻す方法をお教えします」
「おねがいおしえて! なんでもするから!」
それでも未だに黒い瞳に涙を浮かべたまま、心の底から切羽詰まった様子で縋りついて叫ぶ。
――なんでも?
あまりにも愛らしく……そして潤んだ瞳も相まってどこか妖艶ささえも感じさせる望子の言葉に、
(……はっ、わ、私は今、何を考えて……っ!)
一瞬、おかしな方向へと思考が飛んだ
「ミコ様は先程、『静かに話を聞いて』と彼女たちに仰いましたが……
「先のケースで言うなら、彼女たちに静かにしてほしいと願った貴女の言葉の力で、彼女たちは物言わぬ
そして、彼女の耳にもエコーの様に響いて聞こえたあの言葉に宿っていたのだろう力について口にして、チラッと三つのぬいぐるみに目を向けてから、自身の話に結論を出そうとしたその時――。
「……また、はなせるようになって、って……しっかりおもったらいいの……?」
自分なりに彼女の話を解釈し、鼻をすすって涙を拭った望子に対して
「その通りです。 ミコ様、大丈夫ですよ。 貴女なら必ず出来ます。 私もついていますから」
望子を安心させる為にもう一度優しく手を握り、整った顔に柔和な笑みを浮かべてそう言うと、望子はこくんと頷きぬいぐるみを床に均等に並べる。
その後、自分も同じく床に膝立ちになって、祈る様に両手を組み……強く、願う。
「おねがい、みんな……こんなところで、わたしをひとりにしないで……っ」
僅か八歳の少女が異世界にたった一人、耐えられる筈も無い……それを重々理解している望子のそんな切実な願いが届いたのか、ぬいぐるみたちが王の間にて初めて変化した時とは違い、淡く、優しく光りだす。
そして、ぬいぐるみたちは次第にその形を変えていき、しばらくするとそこには――。
「……んぁ? 何であたし床に座ってんだ」
「あら、本当ね……え、望子? どうして泣いて……」
「もしかして何かされたの!? 大丈夫!?」
今の今まで眠りについていたかの様な反応を見せつつも、真っ先に自分を心配してくれる彼女たちに、
「……うわぁぁん! みんなぁぁ!」
望子が泣きながら飛び込んでいくと、三人の
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