第14話 蜥蜴人の兵士
時は少し遡り、聖女カナタが魔族との邂逅を果たす少し前……望子と三人の
望子たちの目から見た住民や冒険者たちは、何不自由無く生活している様にしか見えず、とても魔族の支配を受けかけているとは思えなかった。
……最もそんな彼ら、或いは彼女らの暮らすこの国の王は、
「さて……これからどうする?」
そんな折、腹が減っているのか露店をジーッと見ていた
「そうねぇ、まずはこの……王都? から出ましょうか。
そんな風に王都から出る事を提案する
「ボクもそれでいいよ。早くしないと追手が来ちゃうかもしれないしね」
ふわふわと宙に浮かぶ
「う、うん、そうだよね……かってにおかねもらっちゃったんだもん。 おこられるよね……」
よくよく考えればそれを提案してしまったのは自分だと思い出し、望子はしゅんとする。
そんな望子に対して三人は、あわあわとしながらも何とか望子を元気づけようとして、
「い、いやぁそっちじゃ……あぁ何でもねぇぜ」
「そ、そうね、お金は大事だものね」
「うんうん! 王サマがどうとか関係無いよね!」
三者三様にそれぞれがそう口にするも、
……故に。
「「……」」
「いったぁ!」
ばしっ、と無言で他の二人に叩かれた
「……?」
その様子を、何かあったのかなと理解せぬまま眺める望子だったがそれもその筈、彼女は何も知らない。
自分の大切なお友達が幾人もの近衛兵たちを始末した挙句、この国の王までも惨殺してしまった事実を。
彼女たちもこの世界で命を得て、今や知恵有る生物となった今、罪悪感というものが理解出来ない訳では無く……自分たちが殺めた近衛兵たちにも家族や大切な者がいただろう、そう思わない事も無い。
……あの国王は、どうでもいいが。
あくまでも、彼女たちにとって最も重要なのは望子ただ一人であり、それ以外の有象無象など……どうして気にかける必要があるというのか。
慣れない手つきでいくつも手に傷をつけながら自分たちをつくってくれて……遊びに行く時も、夜眠る時も、ずっと一緒にいてくれた。
勿論、地球にいた時の彼女たちは単なるぬいぐるみであり、意識こそ持ち合わせてはいなかったが、それでも幸せな日常は大切な
だからこそ……望子を守る為、元の世界へ帰す為ならば、魔王だろうと罪の無い人間だろうと関係無い。
三人が三人とも、望子の敵になり得る全てを排除する覚悟を持っていたのだった。
「「「……」」」
そんな事を改めてアイコンタクトで決意し合う彼女たちに、少しだけ仲間外れとなっていた望子は、
「……ねぇみんな、そろそろいこう?」
流石に裸足で歩き回る訳にもいかなかった為、
「あー、そうだな。 さーてどうすっか」
「そうねぇ、私たちでも大丈夫な町がいいわね。 そこで……服なんかも買いたいわ」
「あは、みこなんてパジャマだもんねぇ」
その一方、三人は未だ寝間着姿の望子に笑顔を向けつつ、口々にそう言いながら改めて移動を始める。
「うー……やっぱりはずかしいよねこれ……」
八歳児とはいえ、流石に外でパジャマなのはみっともないと理解していた望子は、気恥ずかしそうに
しばらく城下町を歩いていると、彼女たちの視界に国の出入口だろう大きな門が映り、そこには
先程近衛兵たちに始末されかけた事もあり、若干トラウマがあるのか望子はビクビクしていたが、そんな望子に大丈夫だよと言い聞かせて頭を撫でながら、
「外に出たいんだけど。いいよね?」
一切怖気付く事も無く、三人を代表して
すると
「構わないが……身分を証明できる物はあるか?」
片方の腕をを彼女たちに伸ばし、これも仕事なのでな、と至って真剣な表情で口にした。
「身分を証明?いるのかそんなもん」
一方、当然身分など証明出来る筈も無い
「当然だ。そもそも入国の段階で許可証とはいかないまでも、冒険者の
何を今更、とその
そんな彼女の態度に思わずイラッとした
(……めんどくせぇなこいつ)
今はそう思うだけにとどめ、まずは正直に自分たちの境遇を話し、その上で尚ごちゃごちゃと止めてくるならいよいよ黙らせようと心の中で決めて、
「あー……あたしらさぁ――」
そう口を
「っあ、えっと……あの、みんななくしちゃったの、その、らいせんす? を……ね?」
「「「……!」」」
控えめな声で割り込んだ後、同意を求める様に
「
「ぁ、えっと……」
……とはいえ、完全に見切り発車だった事もあり、
同年代の女子と比べても小さめの望子が冒険者というのは、兵士たちからしてみればどうしても違和感を覚えずにはいられなかったのだろう。
……その時。
「いやぁ兵士さん、そう馬鹿にしたもんでもないよ!この子はこう見えて結構強いんだから!」
「「え?」」
そんな
当然、どちらにとってもこの言葉は予想外であり、現に
(……この少女が、強い?)
一方、生まれながらにして
「……少し付いてきてもらえるだろうか? 何、そこまで時間は取らない」
そこには、どこにでもありそうないくつかの長机と沢山の椅子が置かれており、少し待っていてくれ、と
しばらくすると
「これは……何かしら?」
向こう側が綺麗に透き通って見える程に透明度の高い、丸い水晶玉を覗きこみつつ
そんな
「これは
先程、聖女カナタが
「「「……」」」
ハッキリ言って彼女たちには、『しんと』だの『ぎふと』だの、さっぱり分からなかったが、
「……それがありゃあ、ミコの力を証明出来ると?」
随分と噛み砕いて解釈し、代表して
「そうだとも。 まぁ、授かった者が行使する
そんな折、
「……は、はい」
それを受けた望子は、おそるおそる言われた通りに水晶玉に小さな手を置いた。
……その、瞬間。
「ぅわぁっ!」
「!? な、んだ!?」
「「「ミコっ!?」」」
一瞬のうちに、王の間をぬいぐるみの放つ光が飲み込んだ時の様に、部屋中が白い光に包み込まれる。
無論、望子はすぐに手を離したが、突然の発光に驚いたのか涙目になっていた。
(こ、これは……まさか……!)
明らかに規格外な、それでいて神々しい魔力を有するその少女に、
禁断中の禁断の秘術、
(そうだ、きっと……!)
彼女が……彼女こそが、異世界より召喚されし、救世の勇者なのだと……この世界の、希望なのだと。
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