第12話 ちやほや勇者
しばらく望子を抱きしめていた
ここが地球とは……日本とは違う世界である事、喚び出したのはそこで倒れている聖女である事、異世界でもお金は必要だろうからと宝物庫にいる事。
――そして。
「元の世界に帰る為には、魔王? ってのをころ……あぁいや、倒さなきゃいけねぇらしいんだ」
こんな小さい子相手に『殺す』って表現はな、と思った
「そ、そうなんだ……?」
望子は極めて大まかにではあるものの、帰る為にしなきゃいけない事がある、とは理解出来ていた。
そんな会話をしていた横で
「いるかさん、どうしたの?」
「何か気づいたのか?」
望子と
「……んーん、何でもないよ。 気にしないで、ね?」
心配しないでと言わんばかりに、二人に対して……いや、特に望子に対して笑顔を浮かべる。
(あの事は……言わない方がいいかな、今は)
ここでさっきの話は嘘、帰る方法なんて無い、そんな事を言ってしまえば望子が悲しむかも……そう思い口を噤む事を選択した
「ねぇ、一つ聞いてもいいかしら」
突然、
「うん? どうしたの?」
「貴女……何か隠してない?」
そう告げられた言葉に
「……何の事?」
これは知られない方がいい事だ……あくまでもその考えを貫き、きょとんした表情を作ってそう言った。
「望子が起きる少し前、聖女と何か話してたでしょ」
「……っ」
「彼女……怯えてる様に見えたけど」
眉を顰めてそう話す
(……話は聴こえてなかった、のかな)
それなら誤魔化せるかもと考えて、彼女は咄嗟に言い訳をしようとする。
……奇しくも、
「……怯えてたのはずっとだよ、ボクたちがずいぶん脅かしちゃったんだからさ」
少し視線を逸らしながら、何とか言い切る事が出来た
「……まぁ、そうね。疑ってごめんなさい」
これ以上は聞き出せそうに無いと判断したのか、軽く頭を下げてから話を終わらせた。
(……これでいい、よね?)
自分たちには望子がいればいいが、望子にはまだお母さんが必要なのは誰の目から見ても明らかであり、そんな望子からわざわざ
そう考えた
「じゃ、さっさとこんなとこ出て外行こうぜ!」
至って元気な声で提案すると、その声に二人の
「そうね。 名残惜しくも無いし、行きましょうか」
「ちょっと楽しみだね! 外はどんな感じなのかなぁ」
こちらも明るく賛同し、
「ちょ、ちょっとまってみんな」
か細い声で望子が三人に声をかけると、瞬時に
「おぅミコ! どうした? 何かあったか?」
「お姉さんに話してみて? ね?」
「ボクが何でも解決しちゃうよ!」
あたしが、私が、ボクが……と協調性の無さを存分に発揮し、望子の次の言葉を待つ。
そんな彼女たちに無自覚とはいえ少し引いた様子の望子は、あ、あのね? と話し出し、
「おたからをもらうってことは、どこかでおかねにかえてもらうんだよね?だったらはじめからおかねをもらったほうがいいんじゃないかなぁ、って……」
「「「……!」」」
完全に略奪者思考だった三人には、ここが王城だという事もあり金目の物を奪う事しか頭に無く、望子の提案が青天の霹靂にも思えた。
「そ、そういやそうだな……別に宝じゃなくてもいいのか……うっかりしてたな」
「……そもそも国の宝じゃあ、売ろうにも足がついちゃうかもしれないわね」
「流石みこ! ボク全然思いつかなかったよ!」
三者三様に望子の提案を肯定する発言をした
「そ、そうかな? ぇへへ……」
そんな彼女たちに対し照れ笑いを浮かべる望子に、三人はきゅんときてもいたのだった。
その後、望子の笑顔に緩みきった自分の頬を、
「よし! そんじゃあ
そう言ってふいっと聖女がいた筈の方に顔を向けたが、彼女が倒れていることを思い出す。
だがそんな彼女の言葉や困惑気味の表情とは対照的に、
「別にいいんじゃないかしら、ほらこれ」
「ん? 何だそれ」
見せつける様に望子たちの前に差し出したのは、地球にもありそうな小さめの箱の様なデザインの鞄。
「さっき見つけたのよ……ちょっと見ててくれる?」
高そうな物を探してる途中にね、と付け加えてからそう言うと、彼女はもう片方の手にいつの間にか持っていた宝飾付きの絢爛な盾を鞄に入れた。
……明らかに鞄より大きな、その盾を。
「おぉ!?」
「えぇ!?」
「わぁ……!」
「……でも、それが何?」
宝は持っていかないんだよ? と付け加えて問いかけると、
「はいこれ」
未だ物珍しそうに鞄を見つめていた
何だこりゃ、と
「……もしかして、ここのおかね?」
「えぇ、多分ね」
自分なりに推測してそう口にして、
「これと同じ匂い、貴女なら辿れるんじゃない?」
先程の、匂いがどうのといった彼女の発言を覚えていた
「! 成る程な! よーし任せろ!」
しばらくすると、彼女はハッと目を
「……よっしゃ見つけた! 行こうぜ!」
余程嬉しいのか大声で叫ぶ
「はいはい、分かったからもう少し静かにね」
「もー……耳に響くぅー……」
「あはは、げんきだね……」
口々にそう答えて前を歩く彼女に倣い、倒れた聖女を壁に寄りかからせてから宝物庫を後にする。
その後、無事に大きな金庫を発見した四人は、なるだけ静かに扉を破壊して大量の金貨を拝借し、こっそりと、されど速やかに王城を出る事を選んだ。
――主を失った、その城を。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます