第11話 勇者の目覚め
緊張の糸が切れたかの様に気を失ったカナタとは対照的に、意識を取り戻し目覚めた望子は、
あたしらがついてるからなとか、寂しかったら甘えていいのよとか、それはボクの担当だからとか。
……言っている事は分かる。
この人たちはきっと、さっきの怖い人たちとは違って……優しい人たちなんだろう。
――でも、そんな事より。
「え、えっと……?」
望子は年齢の割にはとても賢く、少し考えれば手元にぬいぐるみが無い事も、その数と目の前の彼女たちの人数を照らし合せる事も出来た筈。
だが目覚めたばかりで意識がふわふわしていた望子には、彼女たちが一体誰なのかは分からなかった。
「「「……?」」」
そんな望子の様子を見て、
「……はっ!?」
その内の一人である
「ど、どうしたのよ」
「ちょ、ちょっと集合!ミコは待っててくれ、な?」
「ぇ、ぅ、はい」
そう言って二人を引っ張り宝物庫の隅に向かっていき、そんな彼女の言葉に望子は頷くしかなかった。
「どしたの急に」
「本当よ、望子もおどおどしてたわ」
未だ事態を理解していない二人に対し、深く息をついた
「……そりゃそうだろうな」
「「……?」」
低く短いその声でそう告げたものの、それでも二人は首をかしげ、結局何が言いたいのかと先を促す。
「いいか、あたしら元はぬいぐるみだろ?」
「そうだね」
一方、人差し指をピンと立てて語り出した
「……で、今はこんなんだろ?」
今度は自分の身体を二人に見せつける様に腕を
「そうね、それが……あっ!」
「うわ、何?」
彼女の問いかけに頷きかけた
「分かってねえんだよ、あたしらが誰かってのを」
「「!」」
そう告げた彼女の推測通り、現時点で望子は
流石に、目覚めたばかりで朦朧としてるからとは考えなかったものの、大方間違ってはいなかったのだ。
そんな衝撃の事態に直面した三人は、自分たちが異世界に召喚されたと知った時より狼狽しており、
「どど、どうしよう!? どう言ったらいいの!?」
「……望子は賢い子よ。 話せば分かってくれるわ」
「……だよな、あたしもそう思うぜ」
そんな風に部屋の隅で会話する三人を眺めていた望子は、少しずつはっきりしてきた意識とともに、もう一度しっかりとその三人を観察する。
……三人が三人とも人っぽくはあるが、その特徴に共通点は無く……唯一似たところといえば、服の部分が少なくかつ薄いという事だけ。
(あおいおさかなさん……ちゃいろのとりさん……あかい、わんちゃん? う〜ん……)
そんな事を考えている時、望子はここで漸く自分の手元が寂しい事に気がついた。
(……あ、あれ!? みんなは!?)
内緒の話をしている様だったから、邪魔しないために声はあげなかったが……大事なぬいぐるみが無い。
(ど、どこにいったの……?)
辺りをきょろきょろと見回してもそれらしき物は無く、人知れず泣きそうになる望子だったが、ぴこんと電球が浮かぶかの如く何かを閃いた。
(あのおねえさんたち、もしかして……)
……何度も言うが、望子は賢い子である。
故に、ぬいぐるみが人に……否、人っぽい何かになるなど、普段なら考えられよう筈も無い。
だがそんな望子でさえも、そうとしか思えない程に彼女たちの
最愛の母である柚乃から、料理や洗濯、掃除に次ぐ家事の一つとして教わった『裁縫』。
三つのぬいぐるみは、そんな望子が母の手を借りて拙いながらも最初に創った『お友達』なのだから。
意を決して望子が彼女たちに近づき、
「お、おうミコ、どうした?」
「一人にしてごめんなさい、もう話は終わったから」
「うんうん、それでねみこ、ボクたちは――」
「……『おおかみさん』?」
「「「……!」」」
とても小さな、だが彼女たちにとってはどんな音よりハッキリと澄んで聴こえるその声音。
当の
「……ミコっ! あたしが分かるんだな!」
「っ、うん! やっぱりおおかみさんだ!」
心底嬉しげな声でそう言うと、望子もぎゅっと抱きしめ返しつつ、安堵からか涙目になっていた。
「ね、ねえ望子、私は分かる? ほら、この羽とか」
「ボクも分かるよねみこ! 青い鰭とか結構分かりやすいと思うんだけど!」
そんな感動的な場面を見せられた二人が、必死に自分たちの特徴を挙げているのを見た望子は、
「わかるよ。『とりさん』と『いるかさん』だよね」
「望子……!」
「みこーっ!」
ぇへへ、とはにかんでから二人の名を呼んだ事で、
――それはまるで、人とぬいぐるみが逆転した様な、そんな不思議で幸せな光景だった。
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