第8話 悪しき天啓
(どう、したら)
目の前の
一罪悪感から死を覚悟した彼女ではあったが、先程のやりとりにより全身が恐怖に染まりきっている。
……言える筈が無い。
帰り方なんて知らないばかりか、そんな方法があるのかどうかも分からないなんて。
ただ殺されるだけならそれはいい、だが彼女たちが王を殺害した際の残虐さや冷徹さ、あの少女を想う病的なまでの感情を垣間見た今、きっと死ぬだけではすまない……そう、思ってしまっていた。
「……ねぇ、聞いてんの?」
口ごもるカナタに対して痺れを切らしたのか、
本当に少しずつではあるが、その青い瞳が怒りの色を帯びている、カナタにはそう見えていた。
(どうすれば、どうしたら……あっ)
……その時、カナタはある案を思いついた。
だがそれはあくまでカナタにとっての天啓であり、少女たちにとっては決して良い提案とは言えない。
しかし、これを信じてさえくれればとカナタは決意を固めて、いつの間にか一様に意識を手放していた臣下たちに興味を無くし、こちらへと近づいてきていた
「……帰る方法は、あります」
カナタが神妙な面持ちでそう告げると、
「ほんと? なら良かった」
「ふぅん……」
「嘘じゃねぇだろうな?」
――やはり、信用はされていない。
だがそれもこれから話す内容次第、カナタは頭の中でここまでで得た情報を整理しながら、
「貴女たちが大切にしているその子は、
あろう事か、今この場で即興の帰還方法を紡ぎ出す事を選択していたのだった。
「……この世界は随分と平和と程遠いのね」
その一言で、地球程平和では無いのだろうと判断した
……果たして地球が平和かどうかと問われれば、微妙なところではあるのだが。
「はい、百年ほど前に突如現れた魔族たちによって、世界の半分以上が支配下に置かれているんです」
その言葉を受けたカナタが震える声でこの世界の現状を説明すると、はぁ、と
「てめえらで戦えって言いてえとこだが……強そうな奴の
「……におい?」
そんな
「ん? あぁ、なんとなくだけどな、少なくともあたしより強いのはいねえってのがわかるだけだ」
「へー、便利だね」
一方、
「……話が逸れてるわ、続けてくれる?」
――ここからが、正念場だ。
「
「……成る程ね、読めてきたわ」
「……んー? どういうこと?」
カナタの完璧とは言い難い説明でも理解出来たのだろう、納得する
「……その魔王ってのをあたしらに倒せって?」
「は、はい、そうなります」
そんな
――信じて、もらえた?
カナタは少しだけ安堵したが、それも無理はないだろう、
「面倒くせぇなぁ……でもミコの為だしなぁ」
「まぁ、望子が目を覚ましたら一度話し合いましょうか。決めるのはそれからでも遅くないわ」
「うんうん、そうしよっか!」
そんな
「なぁ」
「はっ、はいっ!」
思わず声が上ずってしまうカナタだったが、そんな事は気にも留めず、
「王様がいたって事は、ここって王城なんだよな?」
「そう、ですが……それが何か?」
機嫌を損ねない様に言葉を選んで聞き返すと
「なら、金目の物の一つや二つ、あって当然だよな」
またも当然であろう事を、改めて確認するかの様に問うてくる事にカナタは違和感を覚える。
だが、だからといって尋ね返すのも恐ろしく、今は素直に答えておこうとカナタは口を
「……ぇ、えぇ、まぁ、おそらく」
「じゃあ、そこ連れてけ」
「……えぇっ!?」
何の気無しに告げられたその言葉に、カナタは少し遅れて反応し、その表情を驚愕の色に染めた。
「そっ、それは私の一存では……!」
力では勝てるべくもないゆえに、彼女は言葉で必死に抵抗してみせたのだが、
「でも、貴女が決めるしかないんじゃない? 貴女より位の高そうな人は……あんな状態だし」
そんな
「……あぁ、へいか……ぁああ」
何かそんな事を呟きながら、パシャパシャと音を立てて血を掬い、溢し、また掬い――。
――彼はもう、壊れていた。
露骨に視線を逸らした後、完全に諦めたカナタは三人の
――
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