散歩

 寝る気になれなくてパーカーを羽織って外に出た。

 街灯の明かりがかなり遠い感覚を開けた道を煙草を吹かしながら歩く。深夜帯ということもあって人の姿はない。遠くで車が走る音が聞こえるだけ。

 本来ならダメなんだろうが人が全くいないからと歩き煙草なんてしながら歩く。携帯灰皿はちゃん持ってきているから許してほしい。吸い始めはそんなことを考えていたが煙草が半分の短さになるとそんな考えも頭の隅に置かれていつの間にか消えている。

 散歩をする理由は眠れないからではなく眠る気になれないから。眠いはずだがベッドに横になっても一向に眠れる気がしなかったから散歩をして気分転換でもすれば眠れるだろうという考えだった。

 散歩とはいえ特に行きたい場所もないから適当に歩いているが、見慣れた場所を歩いているはずなのに、夜の顔を見せているとでもいうのか、なんとなく知らない道を歩いているような錯覚がある。こんな道あったけ?こんな景色だったっけ?とかそんな感じの。

 しばらく歩いてたまたま見つけたバス停に設置されているベンチに座る。随分と短くなった煙草を携帯灰皿に押し付けて火を消し、二本目を吸おうか悩む。

 そんな時に風が吹いた。冷たい風に身を竦めて慌ててパーカーのファスナーを上まで上げる。そこで自分が短パンを履いていて素足にサンダルと意味が無いことに気づいた。風も収まり体の震えが止まるのを待ちながら二本目の煙草に火を点ける。ライターを持つ手と風除けに覆う手が温かい。吸い込んだ煙を吐き出して昇る煙をぼんやりと眺める。室内とは違いすぐに消える煙を少しの間眺めてからベンチを立ってまた歩く。特に行く当てもないがこの二本目が吸い終わったら帰ろう。そんなことを思いながら。

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煙草 SS 榎本英太 @enomotoeita0421

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