ライター

 何度かライターのホイールを親指で回して火を点ける。所謂100円ライターと呼ばれる安価なライターだが、自分が吸う煙草に火を点けるには十分な代物だ。

 私の父も煙草を吸うが、ジッポライターを使っていた。

 かちんと音を立てて蓋が開閉する。点した火が蓋を閉じることで消える様子を小さい頃から見ていて格好いいと思っていたが、いざ自分が煙草を吸う年齢になると、ライターへのこだわりを捨て切れたわけではないにしても、買う手は伸びない。

 自分の性格上、定期的にオイルを入れるとかそういうメンテナンスをサボってしまう未来しか見えなかった。

「あっつ!」

 100円ライターの難点は風向きで点けた火が傾いて指に当たること。反射的にホイールから指を離して火を消す。考え事をしながらライターを弄っていたのは自覚していたが、火を点けていたことは完全に無意識だった。実際、煙草に火を点ける時も風除けのために手でライターの周りを覆ってもやり方が悪いのか火が傾いてしまう。

 まあ100円ライターに苦戦しているようじゃ、ジッポライターなんて扱えるわけないか。なんて、買わない理由や言い訳を考えてしまうあたり、私はダメな人間なんだろうか。

 とはいえ考え事をしながらライターを弄ることだけは本当にやめよう。

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