第1話 はじまりの光【魔女】

          *



 魔女の登場によって、戦況は逆転した。キャンティーと魔女の戦闘は、既に一刻も続いていた。


─なんて強さなの……

 息を切らすキャンティーとは対照的に、魔女は余裕そうにみを浮かべている。

「そろそろ教えたらどうだ?お主が何か知ってるのはとぉーっくに気づいとる。教えさえすれば、命だけは助けてやる」

 ゆったりとした口調とは裏腹に、その顔に苛立いらだちを浮かべている。

「誰が教えるもんですか」

 キノが守ろうとしているものを易々と教えるわけにはいかない。キャンティーは強がりをみせる。

「ほぅ……よっぽど死にたいらしいな。では、望み通り殺してやろうッ!」

 魔女の上空に黒い雲が渦巻き、そこから無数の漆黒の剣が現れた。

「《ヤミノムラクモ》!」

 魔女がそう言うと、無数の剣が深界では降るはずのない豪雨のごとく、一斉に降り注ぐ。その範囲は、今尚気絶しているメルや他の隊士をも、巻き添えにしてしまう程に広大である。

「皆、あたしの近くによりなさい!負傷している者は担いできなさい!」

 キャンティーはそう叫び、そして心の中で覚悟を決めた。

─あたしはここで死ぬだろう……。でも、キノにとってのルーのように、一番隊士この子達は私の希望。必ず、守ってみせる!

 キャンティーは春バードのの中央を両手で持ち、天に捧げるようにしてかかげる。そして、そこを中心として回転させ始めた。

「うおおおおおおッ!!《春バード操術そうじゅつ参式 ハルノカギリ》!!」

 キャンティーによって回転させられた春バードは光の傘となり、無数の剣から隊士達を守る。

「なかなかやるではないか。どちらが先に力尽きるか、根比べする気だな……面白ぃ!これならどうだ?」

 魔女が不敵な嗤みを浮かべそう言うと、剣の雨はより一層激しさを増す。

「まだこんな力が……。でも、伊達だてに五十年も生きてないからね。根比べで負けるつもりはないよッ!」

 少しでも気を抜けば死ぬという極限の状況下で、なぜかキャンティーは三十年前にデートで、キノに四時間も待たされたことを思い出した。

─これが走馬灯ってやつ……いや、そんなの絶対に嫌!

 四十年前の出来事に対する怒りが、キャンティーに力を与える。

「たかだか五十年生きただけの分際で、千年の時を生きた魔女に逆らおうと言うのかッ!?最大パワーをらえ!」

 キャンティーと魔女との攻防は、始まってから既に二十分を過ぎようとしていた。

しかし、その戦いにも決着の時は確実に近づいていた。

「くそっ!もう手に力が……」

 ここに来て勢いを増す魔女の猛攻に対し、キャンティーの体力は限界をとうに越えていた。

 そしてとうとう均衡きんこうが破れる。

「ぐッ……!」

 春バードによる光の傘をすり抜けた一本の剣が、キャンティーの肩口を貫いたのである。尚もキャンティーは、気力だけで春バードを回し続ける。

 また一本すり抜けた剣が、キャンティーの太ももを貫いた。思わず片膝を地面に着くも、キャンティーは諦めない。

「キャンティーさんッ!もう十分です!自分の身は自分で守ります。このままでは……あなたが……」

 隊士達は必死に叫ぶ。しかし、キャンティーは、

「あたしの最後のわがままだ……。あたしにお前達を守らせてくれ……」

 そう言うと「ニコッ」と優しく笑った。無情にも漆黒の剣は、キャンティーの笑顔へ向かって、また一本と降ってくる。

─ここまでか……

 そう思った瞬間、一閃の光が漆黒の剣を貫き、キャンティー目の前を通りすぎた。

 光の飛んできた方を振り向くと、そこにはずぶ濡れになったキノが立っていた。

「待たせたな」

 そう言うとキノは魔女の上空に渦巻く黒い曇めがけ、引き金を引いた。

「いっつも遅いんだよ……」

 張りつめた意識から放たれ、キャンティーは安堵あんどと共に地面に崩れ落ちた。



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