第1話 はじまりの光【回想】

          *



 遡ること十数年前。地上は曇りであろうか、その日の木漏れ日の森は暗闇に包まれていた。


 キノとキャンティーはろうそくの微かな明かりの中、酒を酌み交くみかわしていた。

「キノ、その傷どうしたんだ?」

 キャンティーは首を指差す。

「これか……」

 キノはかたわらで眠るルーの顔を眺め、言った。

「これは、三年前にマドレという魔女につけられた傷じゃ」

「あぁ……。ルーが産まれたときの……」

 キャンティーはグラスのワインを飲み干す。口の中に果実の渋みが広がった。

「あの時、わしはこの子から本物の家族を奪ってしまった……」

 実は、キノとルーは血縁上の家族ではない。

 三年前の戦いで、ルーを狙ったマドレとの戦いにより亡くなった両親の代わりに、キノは養祖父ようそふとして今まで育ててきた。

 マドレはキノとの死闘により、大きな傷を負って逃げ出した。傷をいやしているのか、今は鳴りを潜めている。

「この子はわしにとってだけではなく、魔女にとっても特別な子じゃ。いずれ再び、狙われる時が来る。その時はわしが……この子だけは……必ず守ってみせる」

 揺れる炎を映す、その目には血を越えた本物の家族の覚悟が見えた。


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