第1話 はじまりの光【戦闘】

           *



 砦の門を出てきたメルは、隊の先頭に立った。

 左斜め後ろには、キャンティーが構えている。

「キーマ、敵の動向どうこうは?」

 メルは右斜め後ろに構える男、キーマ=カーリ=ブラウンにたずねた。

 キーマは金髪で、メガネをかけた青年である。

 彼は常に冷静沈着で、戦況判断に優れているため、二十三歳という若さにして一番隊の頭脳と呼ばれている。

 また、彼はヒカリサンゴの学者でもある。

「マザーズの情報によると、先遣せんけんの敵は大型のグリード三匹。彼らの一般的なスピードから考えると、三十秒程で到達かと。その後、大小約百匹程が到達します。」

「わかったわ。始めの三匹は私がる。少し、離れてて」

 そう言うと、メルは二、三歩前へ出た。

 激しい地鳴りと共に、三匹のグリードがやって来た。奴らは牙をむき、メルめがけ一斉に飛びかかる。

 メルの心臓がまた「ドクン」と鳴る。

「光よ。舞い、放たれよ」

 そう言うと、メルは両腰にたずさえた二本の刀を一気に引き抜いた。

「《双桜乱舞壱式そうおうらんぶいちしき乱れ裂きみだれざき》!!」

 桜が真っ盛りに咲くように、無数のピンク色の閃光が三匹のグリードを切り裂いた。

「ふぅ……。さぁ、まだまだ来るわ。油断せず行くよ!」

 戦姫ここにあり。メルは刀を納め、見方を鼓舞こぶすると、

「おぉーーー!!!」

 という掛け声と共に、二十人程の隊士は敵目掛け、一斉に駆け出していった。




 白の騎士団の隊員達はそれぞれ『光鋼こうこう』によって造られた武器を持つ。光鋼は魔女やグリードの弱点である光を吸収し、蓄える特殊な鉱石である。この特性は光の届かない深界での戦いで意味を持つ。隊員達は戦いのない間に、日光または月光を蓄え備えている。


 戦いがはじまってから一刻が過ぎた。

※日本でいう、一刻とは三十分のことを指す。


「皆、もう一息よ。頑張りましょう」

 両手に剣を持ち、メルは声をあげる。

 メルが二十匹、キャンティーが三十匹のグリードを殲滅せんめつ

 二人の活躍もあって戦いは終結へと向かっていた……ように思えた。

 突然、胸が「ドクン」と跳ねる。

─しまった……!

咄嗟とっさに胸を押さえてしまったメルは、突進してくるグリードを避けることができない。

 寸前、キャンティーのやりと斧が合体した武器『はるバード』が、グリードを貫いた。

「大丈夫?後は私に任せて、休んでてもいいわよ」

「大丈夫。まだ戦えます」

「無理はしないでね!」

 これだけ戦ったにも関わらず、息も切らさないキャンティーを見て、

─まだまだ敵わない

 メルはそう思った。




 さらに一刻がたった。


 メルの前には足を切られ、もがきながらも命を奪おうと、牙を向くグリードが横たわっていた。

「意外と手間取ってしまったわ。憐れ……これで最後。」

 メルが剣を振り上げた瞬間、「ドクンッ」と今までで最も大きく心臓が跳ねた。

─本当に最後かしら……?

「あうぁッ」

 メルは思わず剣を落とし、胸に苦しそうに手を当てて地面にうずくまる。そして、そのまま動かなくなってしまった。

「メル!大丈夫!?」

 キャンティーが慌てて駆け寄る。その時。

「うああああああああッ!!!」

 メルは突然狂ったように叫びだした。そして上半身を天に向け、固まった。

「なんなの……これ?」

 天に向け大きく開けられたメルの口から、黒い煙のようなものが止めどなく立ち昇る。

 その煙は一点に集まり、徐々に人のような形へと姿を変えていった。そして、

「ふぅ……。やぁっと我の出番か」

 そう言って、女は現れた。

 女は闇の中で妖艶に光る赤い目を持ち、口元から犬歯けんしを覗かせ、全身を黒装束くろしょうぞくに身を包む。そして、その帽子からは美しい銀色の長い髪が揺れている。

「いきなり出て来て、あんた何者よ?」

 キャンティーはただならぬものを感じ、すぐさま戦闘体勢をとる。

「我か?我の名前はマドレ。お主らがいう魔女ってやつよ」

 殺気を放つキャンティーを見ても、魔女はどこか愉快ゆかいそうに嗤っている。

「楽しそうね。何が目的なのかしら?」

「ずいぶんと質問の多い小娘よのぉ。まあよい、我はきぼうの子を探している。お主知らぬか?」

「希望の子……?知らないわね。まあ、知っていても教えないけど」

 マドレという名前。言葉とは裏腹に、キャンティーには心当たりがあった。



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