名前
まだ朝も早い時間から始まった修羅場。
状況に追い詰められたエトはとりあえず女の子1の名前を考えることにした。
「ネズミだから、ねず子な、よろしくねず子」
かかった時間約1秒。
「安直!?安直すぎませんかエトさん!?」
秒で思い付いただけあってそのままなネーミングになった。
以上、命名、ネズミの女の子はねず子‼︎
「ふん、そんなもんよ」
ガーン、
とショックを受ける命名、ねず子と、
苛立たしげに鼻を鳴らすミヤ。
「そういえばミヤにもこうやって名前つけたな、確か……」
「そうよ‼︎わたしのなんてものすごく悩んで」
そしてエトはミヤに名前をつけた時のことをふと思い出した。
(そう、それはちょうど今から〜……)
「お前はミャーミャー鳴くからミヤだ‼︎」
「ミャー!?(ガーン)」
かかった時間はやはり1秒。
以上回想。
「そんなこともあったな」
「雑!?思い出したら思ったより雑だったわよ?私の命名、そして回想おわり⁇」
ミヤの名前も秒だった。
「ミャーさん……」
「ねず子……」
目を潤ませながら見つめ合う二人。
お互い思うところがあるのだろう、さっきまでの壁も感じない雰囲気だ。
「よかった、仲良くなったんだな」
それを見て満足そうにウンウン頷くエト。
「あんな飼い主だったなんて知らなかったわ‼︎」
「氷のような人です‼︎」
ヒシッと互いに抱き合いエトをチラチラ見るミヤとねず子。
「あれー?僕悪者になってるぅ〜?」
一人首を傾げて自分を指差すエト。
「アァねず子、可愛そうに、こんな格好で外に何時間もいさされて、寒かったでしょうに」
「いいえミヤさん、ミヤさんの方こそ、短くない同棲生活だったのに、ちょっと姿が変わっただけで知らない人扱いされて可愛そうに」
ヨヨヨ、
二人して演技全開で泣き出すミヤとねず子。
「わ、悪かったよ、謝るから、な?気を直してくれよ〜」
自分が悪いことをした気になって必死に謝るエト。
「雑に人の名前決める人の言うことなんて信用できないわ‼︎」
「そうです‼︎」
その様子を見て調子に乗った様子の二人。
「適当な人なんて放って、ほらねず子、うちに入りましょう」
「ありがとうございます‼︎」
「ヒェェ……」
ムンクみたいになってるエトをよそに、ミヤとねず子は「洋服は〜」とか、「朝ごはんにしましょう」なんて会話を始めた。
そして容赦なく玄関のドアを閉めにかかる。
「ちょっ!?ちょっと待ってくれ!?」
最後の隙間に指を挟んで止めたエトは、何やら必死に訴え始めた。
「……何?」「何ですか?」
ムスッと、頬を膨らませた二人がエトを睨む、
「別に適当に決めた訳じゃないよ‼︎ちゃんと理由があるから‼︎」
本当か嘘か、そんなことを言い出したエト。
「何よ、言ってみなさい」
「わたしの方は言い逃れできそうにないですけどね」
トゲトゲした言葉がエトの心を刺さっていく。
「わかった、あのな?ミヤ、まずお前の名前だが……」
こうして、
ミヤとねず子の足に縋り付きながらエトは、一時間かかって二人の名前の由来を真面目に考えたと説明して、なんとか納得してもらったのだった。
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