126 白麗、その意味を知らぬ<恋>に泣く・その7
右手が少女の白い髪の毛に触れた。
指先でそっとその短い髪を梳いてやる。
少女がもらした深く長い吐息が、暖かく優しく彼の胸を撫でる。
毎日、薄い浴衣の少女を抱いて薬湯に浸かっている。
その肌の白さも胸の薄さも、柳の若枝のような体が柔らかく
……おれはな、ワンコ。
胸の大きい女が好みなのだ。
それと、ませたガキはどうにも好きになれん。
しかし、据え膳を食わぬは男の恥と言うではないか……
その時、英卓の頭に突然に襲ってきた痛みは、痛いなどという生易しいものではなかった。
頭の鉢が万力で挟まれて、ギリッギリッと締め上げられた。
激痛に目の前が暗くなる。
「うわっ~~!
頭が割れる~~!」
白麗を突き飛ばすつもりはなかった。
……が、胸の上に少女をのせていたことなど考える余裕もなかった。
彼が跳ねるように飛び起きたことで、自分の体を支えるほどには体力が回復していなかった少女は、風に翻弄された1枚の木の葉のように文字通り部屋の隅まですっ飛んだ。
そしてそのままでぴくりとも動かない。
慌てて駆け寄った英卓は叫んだ。
「誰か、誰か、来てくれ!」
英卓の叫びに、いつでも抜けるようにと刀の柄に手をかけた堂鉄と徐平が飛び込んできた。部屋の中の状況をすぐさま理解した堂鉄は手にした刀を置くと、膝を折って、揃えた二本の指を白麗の鼻に近づけて息のあることを確かめる。
そして彼は徐平に言った。
「急いで、永先生を呼んでこい!」
「どこにも怪我はないようだ。
したたかに頭と背中を打って、気を失っているだけだ」
「永先生、信じてくれ。
堂鉄、徐平、おまえたちが考えているようなことではない」
英卓は着物の襟をかきあわせながら言った。
「寝ていたら、ワンコが………。
俺の着物を脱がせたうえに、俺の上に這い上ってきた。
胸のないガキの分際で、俺の腹の上に乗ろうとは百年早いと思い、突き離したらすっ飛んで……」
頭痛を言い訳にすることは
症状が現れた時と同じように、突然に、激痛は跡形もなく消えている。
いつになく険しい顔をして但州は英卓を睨んだ。
いつもは飄々として温厚なその目が、本気の怒りで氷のように冷たい。
「お嬢さんは医術の心得があるのだ。
おまえが明日の朝にここを立つと知って、怪我の治り具合を見て、心の臓の音を確かめたかったのだろう。
それを気を失うほどに突き飛ばすとは……。
堂鉄、お嬢さんをそっと抱いて、部屋まで連れ戻せ。
徐平は、萬姜を呼んで来い」
但州はもう一度、冷たい目で英卓を睨んだ。
「おまえはついてくるに及ばぬ。
お嬢さんが目を覚ました時に、おまえがいたら怖がるだろう。
どうやらわしは、おまえが死の縁をさまよった怪我人だと思うあまり、お前を甘やかしてしまったようだ。
命の恩人のお嬢さんを犬呼ばわりすること自体が、あまりにも情けない。
自分が何をしでかしたか、ここで一人、頭を冷やして考えよ」
十六歳になったばかりの徐平までもが主従の関係を忘れて、英卓の乱れた着物の胸元を呆れたような眼差しで見ている。
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