107 英卓、白麗に助けられてあの世より戻る・その3




 時はさかのぼって、英卓が堂鉄に担がれて六鹿山を降りてより五日後。

 深手を負った英卓は眠り続け、その傍らで、文字通り身を削った治療を白麗が施していた時のこと。


 六鹿山で、また新たな襲撃事件があった。


 駐屯兵や銅山で働く人足たちが集まる賭場が襲われた。

 刀を抜いた五人が押し入って二人を斬り殺し、一人を連れ去った。


 連れ去られた一人は、翌日、山道から外れた場所で死体となって発見された。

 そのものは無残にも野犬に食い散らかされていた。

 しかしよくよくその屍を調べれば、生きている間に厳しい拷問を受けたと思われる惨い傷が残っているのがわかっただろう。


 殺されてその死体を捨てられていたのは、六鹿山の人足を束ねる親方衆の一人。

 そして賭場で斬り殺されたのは、その親方の下で汚い仕事を片づけていた二人。


 この最近、三人ともに金回りがよいようで賭場で大金を賭けて遊んでいた。

 それでその金の出どころを巡ってのいざこざによる喧嘩であろうと、その場に居合わせたものたちは噂した。


 さらわれて拷問を受けた男は、よほどの憎しみを買ったらしい。

 殺された三人に同情するものはいない。

 彼らをよく言うものなど、この銅山に誰一人としていなかった。


 殺された男たちが湯水のように使っていた金の出どころ。

 襲撃した男たちの手慣れた刀の扱い。

 不審なことは多々ある。


 しかし、六鹿山を管理している役人の調べは、この三か月ほど頻繁に出没した野盗に彼らも襲われたということで、早々に打ち切りとなった。








 そして、それからまた数日後のこと。


 今度は慶央の妓楼で、二人の男が殺された。

 ひいきの女を巡って、片方の男が仲間を募って妓楼に押し入っての喧嘩沙汰のようだった。


 殺された二人のうちの一人は、仲間を助けようとして巻き添えを食ったらしい。

 目撃した妓女たちもそう証言し、状況からみてもそのように見える。


 殺したものたち数人の手口は鮮やかで、逃げ足も速かった。

 ただ、殺された二人は荘本家の配下のものだ。

 そうとなれば、殺したものたちはどこに逃げようとも、いずれ追い詰められてその首と胴は離れる運命だ。


 苦労して犯人を捜すことはしなくてもよいと、慶央の役人たちは思った。

 それでなくとも自分たちは、南の都・慶央といわれる華やかな街で、他の揉め事の処理に忙しい。







 遠く離れた銅山での殺人と慶央の妓楼での殺人。


 この二つが結びついていると知っているものは、それを指示した荘興と、ごく限られた総本家のものたち。そして次は自分たちが殺される番だと怯えるものたちと、彼らの後ろにいてあれこれと画策した園剋のみだ。


 その後、荘本家のもの十人ほどが慶央より遁走した。

 欲に目がくらみ、園剋のために働いていたものたちばかりだ。

 しかし、彼らは逃げ切れるものではない。

 地獄の果てまで追いかけられていずれ命を失う。


「六鹿山で手引きしたものと、荘本家のものでありながら園剋の言いなりになっていたものたちは始末した。

 これでしばらくは、本宅のあのものも大人しくなるだろう。

 手懐けたものたちがいなくなっては、手足をもがれたも同然」


 苦虫を噛みつぶしたような顔で荘興が言った。




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