063 関景と允陶、千松園で密談する・3



「おう、そうよ。

 髪の白い小娘の話をするために、皆の雁首を揃えたのではなかった。

 今日は、英卓の居所を探し連れ戻すための算段を話すために、皆に集まってもらったのだ」


 辛辣で時に短気な宗主の昔々の女絡みの話と漂う酒の香に、なごやかに緩んでいた席だった。しかし、関景の言葉とともに再び痛いほどの緊張が走る。


「いま、英卓は、六鹿山にいるということまではわかってはいる。

 六鹿山は、山々の重なりは深く広い。

 そして、知ってのとおり、よそ者が入り込むのは難しいところだ」


 この数十年、幸いなことに青陵国は他国との大きな戦争をしていない。

 しかし、越山国との境をなす六鹿山近辺はいまだ国境が定まらず、常にきな臭い。


 六鹿山には、質の良い銅を産出する鉱脈が縦横に走っている。

 そのために、青陵国と越山国、どちらの国も喉から手が出るほどにこの地が欲しい。両国軍の小競り合いが絶えない。


 それだけならまだしも、銅を私掘・盗掘するものも多く、それらのものたちは気の荒い抗夫のみならず、命知らずな傭兵すら抱えていた。

 そして、夜になれば、野盗・山賊の類が跋扈する。


「よりにもよって、六鹿山とは。

 五年の放浪で、傭兵にまで落ちぶれたか。

 英卓のやつ、世を儚んで、死に場所を探しているとしか思えんな。

 探し出すのも苦労だが、連れ帰るのも、一筋縄でいかぬと覚悟せねばななるまい」


「しかしながら、堂鉄が以前は越山国の兵士で、あの辺りの地理に明るいとは。

 これも、天の計らいであるかも知れません」


 そう允陶が言い、自分の名前が出たことで「はっ」と応えて、堂鉄がその大きな体を縮こまらせた。


「允陶の言うとおりだ。

 長年の悲願に、ここまでは天の計らいとしか思えぬ幸運が続いた。

 しかしこの後は、そう簡単にはことは運ばぬような気がする。

 我らのすることを、あの園剋が手をこまねいて見ているとは思えんからな」


 腹違いの姉を頼って泗水から慶央にやってきた男の舌が赤く、その先が二つに割れていたとは。それはちろちろと甘言を囁き、油断して近づいたものに巻きついては、喉の奥に隠し持った牙から毒を注ぐ。


「あやつに毒を注がれて、言いなりの手足になっているものは、屋敷内にも相当数いると思ったほうがよい。 

 我々の動きはすでにあやつに漏れているはずだ。

 六鹿山に行くものは、あまり多いのも目立つが、十人は必要か?

 急いてはことを仕損じる、慎重にも慎重をかさねようぞ」

 

 次々と、手練れでもあり信頼もおけるものたちの名前があがる。


「堂鉄、準備を整えて、年明けとともに、このものたちを引き連れて出立せよ。

 おまえのその体だ。

 いざとなれば、暴れる英卓を担いででも連れて帰ってこい」




 




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る