008 荘興、荘本家・宗主となり、五十歳となる・1


 五年ぶりに、荘興は慶央に戻ってきた。

 荘健政とその妻は、一人息子の帰郷に涙を流して喜んだ。


 そして、五年もの間、息子がどこで何をしていたか。

 持たせた大金を何に使ったか。

 その一切を、彼らは訊こうとはしなかった。


 訊かなくとも、見ればわかる。

 五年の間に心身ともに成長して、荘興はその顔つきさえ変わっていた。

 大切な息子がひとかどの大人の男となって戻ってきたのだ。







 慶央に戻ってきた彼は、家業の口入れ屋を真面目に手伝うようになった。


 いや、手伝うというよりは、その仕事にのめり込んだ。

 傍目には、何かに取りつかれていると見えたほどだ。


 人の頼みごとを断れない父の健政が、人助けと思い、始めた口入れ屋だった。

 それを男の一生をかける生業なりわいとして、彼は選んだのだ。


 蛙の子は蛙だった。

 荘興も父に似て、人を見抜く目を持っていた。 

 適材適所に人を差配するのが上手かった。


 数年で、慶央の役人宅・豪族・商家・客桟・渡し場・妓楼などで働くものたちで、荘家親子の世話にならなかったものはいないとまで言われた。


 そのうちに、荘興の下で、彼の手足となって働きたいという者が現れた。

 荘興はそういったものたちで、見どころがあるものは、手元に置くようになった。


 荘興に働き口を見つけてもらったものたちは、彼に恩義を覚える。

 そして、その恩義を返そうと願う。

 その結果、雇われ先で小耳に挟んだ話を、彼のもとに寄せる。


 そういうものは、公にはできない面倒ごとが大半だ。

 それで、荘興は、彼のもとに身を寄せた知恵者や腕に覚えのある者たちを使っては、解決にあたらせた。


 面倒ごとには、解決に流血をともなう危険なものも少なくない。

 しかしそれで得る謝礼は、口入れ屋で得る儲けとは比べものにならないほどに大きい。


 父・健政の賢さと面倒見の良さに加えて、荘興には、この生業をより発展させるために必要な、知恵と度胸を持ち合わせていたのだ。






 三年が過ぎた。

 荘興の活躍を風の便りに知った泗水の交易商・園挌が慶央にやってきた。


 彼は、荘興と娘・李香の縁組をまとめにきたのだ。

 三年前は、荘興を入り婿にと望んでいた園挌だったが、今度は喜んで李香を嫁に出すという。


 李香は十八歳となり、花も恥じらう美しい大人の女になっていた。

 彼女を妻とするのに、荘興になんの不満もない。


 李香を娶ったことで、彼は美しい妻と、財力のある義父の後ろ盾を同時に得た。



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