第10話:妊娠…太古の記憶
彼に抱かれているとなんか無邪気な子供時代に還っていくみたい。おとなになって恋なんてただのゲームなんて昔の歌謡曲みたいなことばかりしていてこんな純粋に恋をすることを忘れていた気がする。
彼の心臓の音が聞こえる。その心臓の音が私を子供から赤ちゃん、はては私が産まれるはるか昔の太古の時代まで戻してしまう。これはあなたの記憶なのね。なんかきつい臭いがするけど……。これが太古の臭いなの?臭い……すごく臭い……鼻が破壊されそうなほど臭い……いや……もう……腐すぎる!腐すぎる!腐すぎる!臭いどころじゃなくて腐ってるみたい!ああ!このままだと激腐死しかねないわ!
「臭すぎるわよアンタ!!!!!!」と、とうとう私はあまりの激臭に耐えきれなくなって彼をぶん投げたの。なんなのよ!いくらなんでも酷すぎない?アンタ生まれてからお風呂入ったことあんの!いい加減にしてよ!私にも限度ってものがあるわよ!ああ!こんな臭い撒き散らされちゃ絶対部屋中に臭いが残るわ!ああ!明日はクリーニング屋さん呼ばなきゃ!どうすんのよ!これ!私はとりあえずコイツをさっさとお風呂に入れなきゃと震える彼をふん捕まえてお風呂場に投げ飛ばしたの。
お風呂場で彼は暴れたけど、私はうるさい!黙れ!と一喝して黙らせたの。ホント手のかかる男!大人ぶってキスなんかしたくせに、男の身だしなみを何一つわかってないんだから!でも……サバンナじゃ身だしなみどころじゃないか。なんかすっかりしょんぼりしてうずくまってる彼がかわいそうになってきた。私は彼の目の前に座ってさっきはゴメンねと謝ったの。彼ったら皺だらけの口をすぼめてなんかいじけた顔してるの。フゥ~!とかつぶやいて、目なんかウルウルさせて……あっ、もしかして泣いてるの?毛だらけで全身真っ黒な体で泣いてるの?
バカ!私のバカ!彼はサバンナの厳しい自然で育ってお風呂なんか入る暇なかったのよ!能天気にお風呂なんか入ってたらライオンに食べられちゃうようなとこで生きてきたのに!そんな生活に耐えられなくてわざわざ日本まで出稼ぎに来たのに!私は震えている彼を窒息死しそうなほど抱きしめたの。ゴメンね!ゴメンね!もうあなたをいぢめたりしないから!
それから私は彼をお風呂に入れる準備をはじめたの。まずはシャワーを浴びせなきゃと彼にシャワーを向けてお湯を出したら、彼超びっくりしてウキャキャ!と大暴れしたの。もしかして怒ったかな?とシャワーをやめたら彼がよってきてもっと浴びせろとウキー!と言いながらせがんで来たの。可愛い!こんな無邪気な人がこの世にいるなんて!
だけど彼ホント毛だらけ。全身を見ても毛しか見えないの。見えるのは黒すぎる顔だけ。彼の毛の中ってどうなってるのかしら……って考えたら私恥ずかしくなっちゃってバカ!サル子!変なこと考えんな!って顔真っ赤にしてたら、それを見て彼がニンマリしてるの。だからもうーっ!なに見てんのよ!っていけないと思ったけど八つ当たりして彼をまたぶっ飛ばしちゃった。
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