第9話:妊娠…傷口 その2

 私は彼のお腹の中の毛を捲って絆創膏を貼ろうとしたの。したら彼が突然暴れだして、全身の毛を逆立てて私を威嚇しはじめたの。興奮してるから傷口から血がピュッピュピュッピュとさっきよりも勢いよく飛び出してる。


 えっ、どうしたの?傷口に絆創膏を貼ろうとしたのに!私はちょっと腹が立って「あなた!何考えてるの!絆創膏貼らなきゃ出血多量で死んじゃうじゃない!」と彼を叱ってやったの。でも彼は日本語がわからないから私の言うことなんか少しも聞かないの。


 日本語じゃダメだからって思って英語で「Listen to me」といっても、ドイツ語で「Hör mir zu」といっても、フランス語で「Écoute moi」といっても彼少しも聞かないの。


 ああ!私アフリカ語なんてわからないよ!ましてや彼の喋ってるサバンナ語なんて猿の鳴き声にしか聞こえないよ!しょうがないから彼をとっ捕まえようとするんだけど、彼はすばしっこくてジャンプ力があるから傷口から血をピュッピュピュッピュと飛ばして逃げてしまうの。



 死んじゃう!このまま血を吹き出してたら出血多量で死んじゃう!私は泣き崩れたの!なんで私から逃げるのよ!あなたを助けようとしてるのに!串刺しにされたことまだ怒ってるの?私が嫌いなの?アンタ私の気持ちがわかんないの?


 すると彼が泣き崩れている私のもとにきて、なぜか手を出してきた。なに?と思っているとまた手を突き出して、私がもしかしたら絆創膏を欲しがっているのかと差し出してみると、彼は絆創膏を乱暴にひったくるなり絆創膏を舐めて自分の傷口に貼り付けたの。そしてフー!とか言いながら傷口の絆創膏をわたしに見せてくれたの。


 絆創膏を貼り付けた彼の笑顔を見ているとまた涙が出てきた。何なのよさっきまでのあの暴れぶりは!絆創膏つけるんだったら最初からおとなしくつけなさいよ!今までいろんな男を見たけどアンタみたいな人は初めてよ!きかん坊でいたずらっ子でまるで子供みたいじゃない!


 すると彼が顔を私に近づけてきた。な、なに?私へのお礼でも言うつもり?と思ってるとどんどん私に近づいてくる。ダメ!それ以上近寄っちゃダメ!アンタやっぱり私を襲うつもりだったのねって、ぶっ飛ばそうとしたんだけど彼のつぶらな瞳を見ていると胸が高まってそれどころじゃなくなっちゃったの。ヤバい!つぶらな瞳に吸い寄せられていく……。私は恥ずかしくなって目を閉じた。そして……。



 私の口に触れるものがあった。わたしはハッと目を開けてみたの。したら彼が笑顔で私の口を舐め回しているの。フー!フー!とニッコリしながら舐めてるの。私はいきなり舌使うなんてこの悪ガキ!って怒鳴りつけようとした瞬間だった。


 彼が私を抱き寄せて、その皺だらけの唇を重ねてきたの。


 鼓動が高まりすぎて止まらなくなる。彼はその毛だらけで全身真っ黒な体で私を抱き寄せる。何か忘れてたものが蘇ってくる。なんて男なの!私をこんなに夢中にさせるなんて!あなたホントに初めてなの?今まで女の子と付き合ったことないの?ウソよ!このモデル顔でセクシーボディーでツルンツルンのお肌を私が一瞬であなたに夢中になっちゃうんだもの!他の女の子があなたをほっとくわけないわ!


 モデル顔でセクシーボディーでツルンツルンのお肌の私は今はただの恋する乙女になっていた。10代前半の純真だった私に戻ったみたい。そんな私を見て彼は息を吹きかけながら微笑んだ。私も嬉しくなって思わず彼に抱きついてその皺だらけの口に何度もキスをした。キスをするたんびに彼はウキキ!と笑い私も嬉しさのあまり含み笑いをする。その間ずっと彼はフー!とか言いながら恋する乙女の私の体をまるで赤ん坊をあやすように揺らしていた。



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