第8話:妊娠…傷口
傷だらけで、お腹からピュッピュピュッピュと血を出している彼に絆創膏を貼ろうと、私は彼の毛を捲って血が出ている傷口を探したの。ホント毛だらけ!どうしたのよ!こんなに毛ばっかり生やして!毛だらけのせいで傷口がみえないじゃない!
そして毛の間から見える地肌は黒光りして真っ黒だった。触るとザラザラしている。その肌の感触がアフリカのサバンナの厳しい自然を私に思い起こさせたの。
ああ!この人はずっとサバンナでライオンやら豹やらハイエナやらチンパンジーやらワニやら猛獣たちが目の前を徘徊しているようなところで暮らして来たんだわ!槍なんか持って猛獣たちから家族を守っていたのよ!でも、そうやって家族を守ったところで今日の食事は猛獣達に食べられてしまうの。ウキー!と獲物を槍で突き刺しても、横から猛獣達に奪われてしまう。ウキー!ウキー!って返せって抗議しても猛獣たちは牙をむき出してガオー!と喚いて今度はお前を食べてしまうぞと彼を追い出してしまうの。
そして家族へのプレゼントにバナナを取ろうとしたら今度はチンパンジーよ!チンパンジは彼からバナナを奪うとウキー!ウキー!と吠えて木に登って彼をからかうの。彼もウキー!ウキー!と木の下からチンパンジーに怒るんだけど、チンパンジー達は直立歩行の彼をバカにして木の上でウキャキャ!と笑っているの。
可愛そう!それでこの人バナナ代稼ぐためにこんな地球の反対側の国まで来たんだわ!毛の間から彼の地肌を見ると傷の跡がいくつもあった。その傷跡が彼のこれまでの苦労をなによりも物語っている。ああ!可愛そう!この人は今日を生きる事が精一杯でろくに恋愛なんかしたことなかったかもしれない!
だからあんなことしたのね。あなたは私に一目惚れをしたけどどう対処していいかわからなかった。きっとあなたの生まれたサバンナではそういうことを誰も教えてくれなかったのね!あなたは自分の溢れる想いをどう処理していいかわからなかった。だから思わずモデル顔でセクシーボディーでツルンツルンのお肌をしている私を襲ったんだわ!だけどあなた、相手が私じゃなかったら間違いなくブタ箱行きだったのよ!私ですらあなたを化け物と勘違いしてぶん投げて串刺しにしたくらいだもの。
つぶらな目を閉じて皺だらけの口をすぼめる彼、そんな彼に見とれていてすっかり傷口に包帯を巻くのを忘れていたことに今気づいた。やばい!血がピュッピュピュッピュと出てるじゃない!もう少ししたら出血多量で死んじゃうわ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます