第20話 春名の心づかい
朝の訓練は日課となっており、結婚後も続いた。
能力の訓練は龍人の一族が精神感応系(超感覚)を得意としているのに対し、サーシャは物体干渉系(念力)を得意としていたため、お互いの不得意な能力を互いが克服するために、感覚を共有する手法を試していた。
体術は、山田の事例で判るように龍人の指導力の高さで、サーシャはもうかなりの腕前だ。
身体強化もしている。
男性格闘家が相手でも勝つ事は容易だろう。
「スタイル維持には最適だわ」
が、サーシャの口癖になるほど熱心だ。
一族の古武術が忍者の格闘術の源流ではないか、とされるほど戦闘力は高い。
「ねえ、龍人。あなた物体干渉系の能力は苦手って、どの程度使えるの?」
「多少。ていう程度かな」
「ちょっと、あなたとシンクロして確認してもいい?」
「その方が早いか。じゃあ、行くよ」
サーシャは龍人とシンクロし、龍人の力をサーシャがコントロールして使ってみることにした。
まず、物体浮揚を試してみようとしたが。
「何これ。物体干渉系は不得意って言うけど、力はものすごく強い。私が紙鉄砲だとして、ミサイル?いえ、それ以上だわ」
「不得意って言うのは力が弱いわけじゃ無く、上手くコントロール出来ないから使えないんだ。お役目は物を破壊する事じゃ無いからね」
「これほどの力をコントロールするって、針の先に大きな風船を乗せ割れないようにしかもバランスを取るくらい微妙な事よ」
「訓練はしているさ。でも、お役目を果たすため、代々精神感応系を重点に訓練してきたからノウハウが少なくて」
シンクロを解き、サーシャは考え込んだ。
二人では無理だ。
もう一人が力を抑え込みながらコントロールを学ぶ?それとも、もっと力の弱い誰かを訓練し、コントロールの仕方をテレパスで伝えた方が早いかしら。
「あ、サーシャ。シンクロした時、少しコントロールの仕方が判った気がする。ありがとう」
「え、あれだけで」
「完全では無いけど、後は試してみるしか無いよ」
「道場では無理ね。外で試して」
父、龍造と祖父龍元は龍歩の訓練をしていた。
母、アンナも精神感応系が得意であったため、龍歩も物体干渉系は苦手だった。
先程の事もあり、サーシャが物体干渉系の指導することにした。
時々顔を出す叔父の源治は、能力が外に漏れるのを防ぐことと、建物への影響を減らすため、道場のシールドに尽力してくれていた。
能力のそれほど強くない女性4人は、訓練に参加することは無い。
嫌な顔一つ見せず、生活をサポートをしてくれている。
そんな彼女達に感謝し、できる限り気にかけるようにしている。
彼女達にとって幸せな日々であるように。
食事はカトリとその娘、春名が作ってくれた。
春名はサーシャと同い年で、本当の姉妹のようにとても仲が良かった。
春名は父の影響もあり、植物学を学んでいた。
栄養士と調理師の資格も持っており、一族の健康管理をしてくれていた。
料理の腕前は一流レストランのシェフ並みだ。
実際、調理師資格を取る際、レストランで数年修業したことがあったがその時、料理長に才能を見そめられこのまま働かないかと誘われた。
実は龍人と、サーシャの結婚披露宴のパーティー料理を作ったのは春名だった。
口の肥えたシャーロットとマルガリーテに、
「シェフを紹介して」
と言わせたほどだ。
妹の愛子にとって憧れの姉的存在で、調理を手伝うこともあるが愛子の主な役目はもう一人の妹、杏子との境内の掃除だ。
春名の菜園と養鶏を手伝うことも重要な仕事だ。
もっとも鶏はほぼ放し飼いだが。
春名の菜園でとれる無農薬野菜は、地元のレストランで人気が高かったが、家族に安全な食事を提供したいからと始めたため、事業にはしなかった。
家族に提供し、余ったその日とれた野菜を知人のレストランに分けていたのだが、ほしがるシェフは多かった。
肉類は、山での能力訓練中に捕獲したシカやイノシシのジビエが多く、チルド保存や冷凍保存していた。
川でとれる魚やエビ、カニも同様に捕獲し保存した。
野菜を分けるシェフ達とは、ジビエと高級国産牛を交換することもあった。
外から見れば、贅沢この上ない食事だろう。
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