第19話 結婚

 龍人二十六歳、サーシャ二十三歳。

二人が大学を卒業し、しばらくして龍人とサーシャは結婚した。

結婚式は自分達の神社で挙げる、神前結婚だ。

サーシャの両親も参列をしてくれた。

サーシャが兄弟のいない一人っ子であったため、両親だけで良いとのことだった。

もちろん、親友のシャーロット、マルガリーテ、アメリアの三人も招いた。

サーシャが日本の大学に行くといたとき、猛反対したのが父親のミルコだった。

日本人と文通させたことが良くなかったと、しきりに言う。

それなら本人に会ってと、龍人に来てもらったのがハイスクール卒業前の出来事だった。

サーシャ自身、実際に龍人と会いたいという気持ちが強かった事もあったが。

龍人を両親に引き合わせ、文通を通じ、日本の文化に興味を持ったこと。

龍人から龍人の家が神社の神主で、古武道の家元であることを説明してもらい、その家に居候させともらうこと自体が良い学習になることを熱心に話すサーシャ。

これまで、そんなサーシャを見たことがなかった両親は驚くと共に龍人の人柄と、龍人の家が教会のようなもので親が神父だと思い込んだ両親は、夏休みとクリスマス、ニューイヤーの冬休みには必ず帰郷すると約束させ、渋々了承した。

西洋において、神父様は尊厳のある存在なのが功を奏したようだ。

文金高島田と羽織袴の出で立ちが親友三人と、両親の興味を強く引いた。

特に親友三人は、動画と写真撮影に忙しい様子。

行動をたしなめられる場面が多かった。

ビデオのコピーを送るからと諭され、動画の撮影は控えたが写真は撮っていた。

披露宴はパーティー形式で、簡素なものとした。

龍人側の参列者は一族と龍人の友人三人程度としたため、挨拶回りも友人が主なものになった。

「サーシャ、おめでとう。やっぱり私たちの中で一番の結婚ね」

とアメリア。

「ブンキンタカシマダ?ハオリハカマ?面白いわね。今度、うちの新商品のデザインに取り入れてみようかしら」

とシャーロット。

「ねえ、プロポーズはなんて?」

とマルガリーテ。

「それがね、正式にプロポーズされていないのよ。龍人の家で一緒に暮らして来たから、自然にね、今日になっちゃった」

とサーシャが言うと、親友三人は、龍人を責めた。

「プロポーズはするべき。信じられない。私なら結婚してあげないわ」

「そうよ。日本人て、デリカシー無いのかしら」

「龍人さん、見損なったわ」

等々、散々である。

「まあ、まあ。十六歳になった頃かしら、龍人に告白されたのがプロポーズと言えなくも無いけどね」

(なんで私がフォローしなきゃならないのよ)

と、内心サーシャは思った。

(多分、一生プロポーズしてもらっていないと、責められることになるだろうな)

と龍人は思った。

「事実上、婚約期間が長かったという事ね。そういうことにしておきましょう」

と親友三人は言ってくれたが。

龍人の友人として参列したのは、小池と山田ともう一人は高橋だった。

高橋は小池の親友で、山田が転校してから知り合った。

高橋も理系が得意科目のためか気が合い、高校時代から四人でいることが多かった。

山田は転校して落ち着いてから龍人の道場に通ってくれていた。

高橋は大学も同じで研究仲間でもあり、今でも研究を続けており将来は二人とも教授になれるはずだ。

「サーシャもきれいな子だけど、友達三人ともきれいな子達だな。紹介しろよ」

と小池が言うが、

「残念、三人とも良いお相手がいるのさ。近いうちに結婚すると思うよ」

と答える。

「やっぱり。そうだと思った」

ははは、と笑い声が上がる。

そんな披露宴でよくある光景が続いた。


 式が終わり、両親はしばらく日本観光するとのことでそのまま滞在したが、シャーロットは自分の立ち上げた会社経営があり、多忙のためプライベートジエットで帰国するとのことだった。

他の二人も少なからずシャーロットの会社に関わっており、一緒に帰国するようだ。

サーシャは残念がったが、3人が仕事も恋も、順調で幸せなことが嬉しかった。

「お二人の、愛の結晶が誕生したら、連絡ちょうだいね。また、会いに来るから」

「結婚式には呼んでね。必ず参列するから」

ハグをし、三人を見送った。

新婚旅行はせず、サーシャの両親を京都、東京と観光案内しそのまま空港で見送った。

新居は、やはり一族の敷地一角に建て新生活が始まった。

合わせる顔は同じでも、結婚の前と後では見える風景が違うような気がした。

朝、目を覚ますと愛する人が隣にいる。

これ以上の幸せな時間は無い。

お互い、心からそう思えた。

時の流れも気を利かせて、ゆっくりと進んでくれるように感じた。

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