第4話 悪童
サーシャたちのテーブルを後にして出口に向かうと、何やら悪びれた男子生徒たちが龍人に近づいてきた。
ぶつかりそうになる男子生徒をいなすと、その生徒は椅子に足をぶつけ派手に転げて
「危ねーな、何しやがる」
と明らかに因縁をかける。
「大丈夫ですか?怪我してないといいのですが」
そう言いながら手を差し伸べる龍人。
状況を察したアメリアが心配そうに
「彼ら、きっとクリントンの取り巻き連中よ。用心棒のガーベイもいるわ。警備の人呼んでこようか?」
と言ってくれたがサーシャはにっこりと笑いながら
「大丈夫、むしろ彼らが心配だわ。彼らさえ無茶しなければ、タツトなら大けがをさせることも無いと思うけど」
「どういうこと?」
と、アメリア。
「タツトは日本の古武道のマスタークラスなの。(それに不意打ちなんてタツト対し出来るわけがないもの。もう状況は把握しているわ)」
龍人の背後からゴリラのような体格のガーベイが殴りかかる。
殴りかかるその手にタツトの手が触れた瞬間、ガーベイの体は宙を舞いテーブルにたたきつけられる。
他の数人がタツトに襲いかかるが、全員、いなされて転がる。
騒ぎを聞きつけた警備員が来るのを見たクリントンが、取り巻きの男子生徒たちに逃げるよう、周りの生徒に気づかれない合図を出しながら
「君たちやめないか!」
と、仲介に入り、そしてタツトに近づき
「やあ、うちの生徒が乱暴なことをして申し訳ない。僕はこの学校で生徒会長をやらせてもらっているクリントンと言います。彼らは問題児でいつも騒ぎを起こし、みんなに疎まれている様な連中なんだ。僕も彼らには困っている。警備員には君は被害者だときちんと説明しておくよ」
と、優等生らしい口ぶりで握手の手を差し出す。
両手を軽く上げ
「いや、どこの国のどこの学校にも似たような連中はいるものだよ。むしろ騒ぎを大きくしたみたいですまない」
と、自然な形で握手を躱す。
「サーシャ、騒ぎを起こしてしまったみたいでごめんよ。連絡、待っているから。(動きやすい服で良かった)」
「心配いらないから。こちらこそごめんなさいね。(ちょっとくたびれたジャケットね)」
「じゃあ。(家にあったものを適当に選んで持ってきた)」
古武道の道着は似合っているけど。普段着には無頓着な人なのよね、これは大変かも。
明日は、もう少しましな服装で両親に会ってくれることを祈るサーシャだった。
食堂を後にするタツトの背をクリントンの視線が追いかける。
嫉妬とも妬みとも諦めともつかない暗い感情をタツトは感じていた。
「彼、なんかすごいわね、サーシャが夢中になるのが判る。日本人て小さくて、顔なんかのっぺりしていると思ったのに、エキゾチックだけどオリエンタルで、アルカイックとも思える不思議な魅力があるわ。それに日本人はみんな武道をやっているの?」
興奮した声でマルガリーテがサーシャの顔をのぞき込む。
「彼が特別なの。彼のおじい様もお父様も、奥様は日本人ではないからいろいろな人種の混血なのよ。それと彼の家が古武道の流派の一つの本家だから、子供の頃から古武術を習ってきたのよ」
「オー、ブドウ。でもホンケ?て、何?」
「創設者の家って言う意味で解るかな」
「なんとなく。でも彼の家は神社と言って日本の神様を奉る家って、以前言ってなかったっけ。それよりさっきの話もっと詳しく話してよ」
親友たちの興味は、やはり結婚宣言ともとれる発言に集まった。
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