第3話 龍人の訪問

 サーシャはハイスクールの最終学年になっていた。

サーシャは親友の三人と学校の食堂に来ていた。

明るく、ヨーロッパ調のしゃれた感じで、割と広い食堂には多くの学生たちがそれぞれのグループで食事や雑談をしていた。

サーシャとその友達のマルガリーテ、アメリア、シャーロットの四人が食堂に入ると途端に食堂の彩りが華やかな雰囲気に充ち、柔らかいものになってゆく。

男子生徒たちが口々につぶやく。

「うちの学校のビューティーフォーの登場だぜ」

「美女四人が大の仲良しでいつも一緒なのは反則だぜ。ちょっと近づきづらいものな」

「ああ、それでも視線がとらわれて離せない」

「あの中の、誰が好みかで性格判断も出来るって話、知っているか?結構あたるらしいぞ」

「魅力がみんな違うからな」

「性格も良く、女子からも人気があるってのが又、超反則級なのな」

等々、食堂の中の話題は彼女たちのことになってしまう。


「サーシャ、文通中の彼氏とは順調なの?」

「ええ、もちろんよ」

「あなた、女の私から見てもキュートなのに、恋人は文通中の彼だけなんて」

「タツト以上に私を理解してくれる男性はいないわ。私以上にタツトを理解している女性もね。だからタツトの他に付き合いたい男性なんて、いないわ」

「当校女子人気ナンバーワンのクリントンも袖にしたくらいだものね」

「あら、あなたたちだってクリントンを袖にしたじゃないの」

「当然よ。彼と比べたら見かけだけのクリントンなんて、人として薄っぺらく見えるもの」

「そうね、私たちに彼氏を引き合わせてくれたサーシャに感謝だわ」

「別に紹介したわけでもないじゃない。みんなでショッピングモール遊びに行ったときに偶然彼たちがいて、相性いいんじゃないかなぁって言っただけじゃない」

「でもきっかけを作ってくれたのはサーシャだもの」

「一人で行っていたら、彼、いいなと思っても、話しかけたりなんてとても出来なかった。サーシャがきっかけを作ってくれなかったら、友達にもなれていなかったわ。でも、3人ともそのショッピングモールで、その日のうちに彼氏が出来るなんて。すっごい偶然よね」

「あの日、ショッピングモールに私たち三人を誘ってくれたのサーシャよね。あなた超能力でもあるんじゃない?」

「まさか、本当に偶然よ。(あの三人がショッピングモールに同時にいて、引き合わせるのにはあの日が最良だったのよね)」

「私たちはあの日出会って、話をして、この人となら一緒にいたいなと思えたけど」

「そうね、サーシャは手紙だけで会ったこともないのに、なぜそこまで言えるのか、私たちには理解できないわ」

「そうよ、手紙でだけなら私でも理想の女性になりきれるもの。なりすましなんて、簡単にできるのよ」

「私とタツトは理想の女性像や男性像を演じてなんかいないわ。お互い包み隠さず、すべてをさらけ出しているもの。十年以上も文通していれば嘘があれば自然と判るわ」

実際に会ったことは無いけど毎日のように会っているのよと、サーシャは心の中でつぶやいた。

「それはそうと、実は今日、タツトと会うことになっているのよ」

「何?どういうこと?」

「近くの大学に、教授の論文発表のサポートスタッフとして来ることになっていてね、時間が空くから会おうって、連絡があったの」

それを聞き親友三人は、興味津々とからだを乗り出して矢継ぎ早に質問をする。

「いつ?」

と、マルガリーテ

「どこで?」

と、アメリア

「初めて会うんでしょ?お互い顔とか容姿は判っているの?タツトの写った写真とか持っているの?」

男性は見た目も重要が持論のシャーロッテがお決まりの語句を発した。

「十年近くも文通してきた人だもの、絶対判る自信あるわ。(知っているけど)実は今日、お昼休みに時間がとれたからここに来るって。もうすぐ来るんじゃないかしら」

「きゃー、嘘。ほんと?」

その騒ぎに周囲の視線も集まる。

そんな中、入り口付近がざわつき始めた。

ざわついた理由は一目瞭然であった。

彫りは深いが東洋系の整った顔立ちで、長身でスマートだが、スポーツ選手のように引き締まっており、それでいて優しい、暖かい雰囲気をまとった、見知らぬ青年が入ってきたからだ。

彼は迷うことなくサーシャたちのいるテーブルに向かい、立ち上がったサーシャの前で

「やっと(実際に)会えたね。待たせてごめん」

「ううん、待っている時間はとても楽しいものだったわ。それにもうすぐ、ずっと一緒にいられるでしょ」

「何?どういうこと?」

タツトに見とれていたシャーロットが割り込んで質問を投げかける。

周りの友人たちも注目する。

「私、卒業したら日本の大学に入学するの。大学を卒業したらタツトと一緒に暮らすことになるわ」

エーともワーとも言えぬざわめきが起きる。

「明日にでもサーシャの両親に挨拶をしたいのだけれど、今日はその打ち合わせも兼ねて来たんだよ」

とサーシャの言葉を肯定するため、友人たちの前で龍人が言う。

「あっと、挨拶が遅れて済みません。私、モリヤタツトと言います。あなたがシャーロットさんですね、サーシャから聞いていた通り、見事にはやりのファッションを着こなす素敵な方ですね。あなたがマルガリーテさん。聞いていた通り優しく、それでいてしっかりとした芯をお持ちなのを感じる。あなたがアメリアさんですね。なるほど、知的でスポーティーな雰囲気をお持ちだ。皆、とても魅力的です。サーシャが皆さんを自慢するわけだ」

「なに、サーシャったら私たちのことも伝えてるの?」

「ええ、いつも。とても素敵なお友達だと。あなたたちがいるからとても幸せな時間が過ごせると、自慢ばかりですよ」

と龍人。

「私たちにはあなたの自慢ばかりしてるけど」

ふふふと三人が笑う。

そう言われて顔を赤らめるタツトに三人は好意を持ってくれたようだった。

しばらく五人で談笑したが、友達三人はタツトを質問攻めしたことは当然の成り行きだろう。

「じゃあ、後で連絡するね。(こんなところにわざわざこさせてごめんね。親友にタツトの自慢がしたかったの)」

「待ってる。(いいさ、結構照れるものだね。でもサーシャの自慢出来る彼氏に写ったかな?)」

(まあ、ね。周りをみれば解るでしょ)

「じゃあ、又、後で。(?ありがとう)」

と、席を後にする龍人。

「彼、素敵じゃない。けど欠点を一つ見つけたわ」

『ファッションセンスがイマイチ』

と三人が口を揃えて言う。

「やっぱりそうよね、日本に行ったらまず、そこからやらなきゃ」

とサーシャは決意した。

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