第2話 サーシャの親友

 サーシャがハイスクールの一期生となり、初めて教室に入ったときのことだった。

「あなたそんなぴらぴらした服で出入り口に立っていたら、他の人が出入りしにくいじゃないの。ファッションだけでなく周囲の人たちにも気を遣ってくれないかしら」

動きやすさ重視の服装に、引き締まった体つきの女子が立っていた。

「あら、あなたのようなスポーツ女子なら飛び越えてでも出入り出来るのではなくて」

「言葉が通じないのかしら。私は他の人に気を遣ってと言ったの。私に気を遣えとは一言も言っていないわよ」

「ふん、行きましょ、マルガリーテ。たまたまこの場所で久しぶりにあなたに会ったからつい話し込んじゃっただけなのに、あの子、感じ悪いわ」

「ちょっと待っててね、シャーロット」

一旦席につきかけたマルガリーテが、先ほどの子のところに行き

「不愉快な思いをさせてごめんなさい。私はマルガリーテ。彼女、シャーロットは幼い頃ご近所だったの。彼女が引っ越して久しぶりに会ったから立ち止まって話し込んでしまって。気づかいがなくてごめんなさい」

「私はアメリア。あの子とはともかく、あなたとは友達になれそうね」

「シャーロットも本当は優しくていい子なのよ。少し意地っ張りなのと、少し乱暴な口調で話すけど」

「少し?かなりと思うけど。まあいいわ。これからよろしくね、マルガリーテ」

「こちらこそよろしく、アメリア」

周囲の生徒には、気にとめる程の事では無い様で、それぞれの知り合いと談笑中だったが、サーシャはそのやりとりを見ていて、すぐに彼女たちと友人になりたいと思った。

(三人とも、本当はとても優しく、きちんと気遣いも出来る子たち。彼女たちとなら楽しい学生生活が送れそう。なんだかわくわくしてきたわ)


 数日、三人の様子を伺いながらある日の昼休み、食堂でサーシャはアメリアに声をかけてみた。

「お隣、よろしいかしら」

数秒サーシャの顔を見つめ、

「どうぞ、空いているからいいわよ」

「ありがとう。私サーシャ」

「私はアメリア。私に近づくと他の生徒から嫌われるよ」

「どうして?」

「私、間違ってると思ったら口に出してしまう。それもストレートに言うから。以前いた学校で、教師のミスを指摘したの。これでも成績は良い方なのよ。兄貴がスポーツマンで、その相手を小さい頃から付き合っていたから運動も得意なの。それがナマイキだって周りから無視されるようになった」

「でも、それはあなたが悪いんじゃない。先日のことだってあなたが正しいわ。周りがあなたを無視しても、あなたは周りの子のことを気にかけてくれていた。誰にでも出来ることじゃないわ」

「ありがとう。でも、先日のことは私にも少し悪意があったの。シャーロット、きれいでファッションも素敵だったじゃない。マルガリーテもチャーミングだし。私にはあんなセンスも魅力も無いから少しジェラシー感じちゃって」

「ふふふ、あなた可愛い」

「な、何言っているの?そんなことあるわけ無い。でも、初めて可愛いって言われた。うれしいものね」

「本当に可愛いし、素敵だわ。あなた、自分で気がついていないから魅力が出せないでいる。ちょっと待っていて」

席を離れたサーシャは、男子に囲まれつつあるシャーロットとマルガリーテのいるテーブルに向かうと、二人に

「ちょっとごめんなさい。私サーシャ。お二人、少しお時間を頂けるかしら」

「こんにちは、私はマルガリーテ、彼女はシャーロットよ。何か用かしら」

「ちょっとあちらのテーブルでお話ししたいの」

「ああ、あの子アメリアね、かまわなくてよ。行きましょ、シャーロット」

(やっぱりマルガリーテは聞き入れてくれた。この子も本当に良い子だわ)

席に着くとシャーロットがまず口を開いた。

「アメリアだったっけ、また何か文句でもあるの?」

サーシャがなだめるように

「いいえ、そうじゃないわ。アメリア、あなたに謝りたいんだって」

想定外の言葉にきょとんとし、三人はあっけにとられている。

完璧な間をとり、サーシャがシャーロットとマルガリーテに伝える。

「アメリア、シャーロットさんのファッションがあまりに素敵で似合っていたから、ジェラシー感じちゃったみたい。自分には絶対無理だからって、悲しかったみたい。だからつい、ね」

人一倍ファッションに気を遣うシャーロットは自分が褒められ、うれしくないはずがない。

「何言っているの、アメリア。あなた、自分の魅力に気づいていないの」

「ほら、シャーロットも同じこと言うでしょ」

と、サーシャ。

「サーシャだっけ、あなたアメリアの友人ならきちんとアドバイスしてあげなきゃ」

「ごめんなさい。でも私、あなたほどセンス無いから」

「いいわ、アメリア。私があなたの目を覚ましてあげる。放課後、ついていらっしゃい」

「アメリア、あなたその髪型、似合っていないわ。シャーロットのところに行く前に、私の母の美容院に行くべきよ」


 その日の放課後、アメリアはサーシャに半ば強制的に連れられて、マルガリーテの母の美容院でヘアメイクをして、シャーロットの親が経営する洋服店でシャーロットからファッションコーディネートを受け、チョイスされた服に着替える。

「アメリア、この鏡であなた、本当のあなたを映して見てご覧なさい」

そこには見違えた容姿のアメリアが写っていた。

「これ、本当に私?」

知的さとスポーティーさが見事に調和され、元々整った顔立ちに、クールビューティーという、まさにぴったりの言葉がそこにあった。

「そう、それが本当のあなた。もっと自分の魅力に自信を持ちなさい」

驚きとうれしさでこみ上げるものをこらえきれず、涙を流しうずくまるアメリア。

「私の両親は二人とも教師で、おしゃれする暇があるなら勉強なさいって言われてきた。兄弟は兄だけだからファッションなんて気にしたことなかった。自分の容姿なんか気にしてなかった。私のこと魅力的だと言ってくれた人なんて今までいなかった。気にかけてくれる人なんていなかった。ありがとう、本当にありがとう。シャーロット、マルガリーテ、サーシャ」

優しくアメリアを抱きしめ、立たせるシャーロットとマルガリーテ。

「うん。今から私たち四人は親友よ、大親友」

「サーシャ。あなた仕組んだわね。でも、気に入ったわ」

楽しそうにシャーロットが言う。

マルガリーテも笑顔でうなずく。

テレパスで三人とも本当はとても優しく、きちんと気遣いも出来る子たちだと判っていたサーシャには、当然の結果であった。

力を正しく使えば、みんなと仲良くなれる。龍人の言った言葉を思い出していた。


 人とは不思議な生き物である。

容姿が変わったアメリアを無視する生徒は誰もいなくなった。

むしろ、誰もが友人となりたがった。

それからの四人は行動を共にすることが多く、お互いの得意分野、シャーロットは政治、経済。

マルガリーテは美術と音楽。

アメリアは理系とスポーツ、特に陸上。

サーシャは文系が、それぞれ秀でていた。

お互いを認め、高め合い、時にはいさめ合い、素直にそれを受け入れることの出来る、本当に仲の良い大親友四人となっていった。

成績も優秀で、しっかりとした理念を持ち、それぞれが魅力的で周囲に気配りもする。

そんな彼女達を学生達は、ビューティーフォーと呼んだ。

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