第5話  出会い

 十数年前。

(ねえ、聞こえる?)

「誰、誰かいるの?」

(そこにはいないよ。君の頭の中にいる)

「頭の中?いや、出て行って」

(ごめん、そうじゃなくて君の頭の中に直接話しかけているんだ)

「よくわからない。もうやめて。又、ママとパパに嫌われちゃう」

(嫌われないようにしてあげるから話を聞いて。まず、声を出さずに僕に話しかけてごらん。出来るかな)

「本当に嫌われなくなる?・‥。じゃあやってみるわ」

(ねえ、聞こえてる?私、変なの?みんなと違うみたいなの)

(聞こえているよ。みんなとは違うかもしれないけど、君は変じゃないよ。これは特別な力なんだ)

(特別な力?)

(そう、他の人には出来ないこと出来たり、聞こえない声が聞こえたりするでしょ)

(うん、でもママは私が怖いって思っているわ。変だって思っているわ。こんな力、いらない)

(それは君がその力をよく知らないし、うまく使えないからだよ)

(うまく使えるようになったら、ママは怖がらない?私のこと嫌わない?)

(そうだよ、ママやパパだけじゃなく、みんなと仲良くなれるよ)

(ずうっと前から私に話しかけていた?)

(そうだよ。でもうまく話が出来なかった)

(変な声はあなただったの?)

(全部が僕じゃないけれど何度も君と話がしたくて、君を呼び続けてやっと今日うまくつながることが出来た。僕の名前はタツト。日本という国にいる)

(私はサーシャ)

(サーシャ。僕は10歳になったばかりだ。君はいくつ)

(7つ)

(へえ、驚いた。7つでこれだけ話せるんだ。君はすごいよ。でも、うまく使えないと君が壊れてしまう。だからこの力の使い方を僕が教えてあげる)

(うん、ママたちに嫌われたくないから教えて)

(じゃあ、いろんな声を聞くのじゃなく僕の声だけ聞くことは出来る?)

(どうすればいいの?)

(この僕の感じ、解る?)

(男の子が見える)

(じゃあ、いったん僕から話かけるのやめるから、君からつないで話しかけてきて)

サーシャは頭の中で捜し物をするようにタツトを見つけ呼びかけた。

幸いに二人の相性はとてもよく、すぐにタツトは見つかった。

それまで聞こえた雑音の様な小さな声や、これまでは割とハッキリ聞こえてきた他の声はもうサーシャに聞こえなくなっていた。

(ねえ、聞こえる?)

(聞こえるよ。すぐに出来るなんてすごい。これからはなるべく僕の声だけ聞いて、僕にだけ話しかけてきて)

(うん、もうタツトの声しか聞こえないわ)

こうしてサーシャとタツトとのテレパシー交信が始まり、徐々に能力コントロールのステップアップが続けられた。

(サーシャ、手を使わずものを動かせる?)

(出来るわ)

(じゃあ、目をつむったままそこにあるぬいぐるみをベッドからタンスに移動してみて)

(どうしてベットにぬいぐるみがあると判るの?)

(君が見ているものは君の頭の中を通して僕にも見えるんだ)

(でも、私にはタツトが見ているものは見えないわ)

(それは今度教えてあげるよ。今はぬいぐるみを動かしてみて)

(やってみる。でも目をつむったら何も見えない)

(目で見るんじゃなく頭の中で見るんだ。大好きな熊のぬいぐるみのことを思い浮かべてみて)

(あっ、熊さん見つけた)

(熊さんの周りは何か見える?)

サーシャの頭の中に熊のぬいぐるみを中心として、輪が広がるようにだんだんと部屋中が見えてゆく。

(見えるわ。熊さんを持ち上げてタンスの上に置く。置いたわ)

(じゃあ目を開けてちゃんと出来たか確かめて)

(出来ているわ。頭の中のお部屋と同じだわ。でも、なんだかすごく疲れちゃった。)

(一日でこれだけ出来ただけでもすごいよ。この力を使うって大変なんだ。無理して使い続けるとサーシャの体まで壊れてしまう。毎日少しずつ、いろいろなことが長く出来るようにしよう。又、明日呼びかけるから)

(うん、待ってる)

練習は数週間が続いた。サーシャも少しずつ上達していった。

(今度はタンスを移動してみて)

(あんな重いもの、動かせるかしら)

(この力に物の重さは関係無いんだよ。重そうだから出来ないと思わず自分を信じてやってみて)

(今度も目をつむったまま?)

(そうだよ、出来る)

(うーん、やってみる。…あ、出来たわ)

(じゃあ、今度はその2つのタンスを同時に入れ替えて並べてみて)

(うーん、2つはうまく出来ない)

(じゃあ、出来るようになるまで練習だね。でも今日はこれでもうやめて休んで)

(判ったわ。なんか楽しくなってきた)

(でも、勝手に一人で練習してはだめだよ。練習するときは僕を呼んでね)

(うん、タツトと練習するのが楽しいんだもの)

(いいかい、このことだけは忘れないで。この力を正しく使えば、みんなと仲良く出来る。サーシャも幸せになれるよ)

交信でタツトから流れ込んでくる優しく、あたたかい感覚がサーシャには気持ちよかった。

不思議なことにタツトの他に、優しい女の人が見えるときもあった。

そんなときはサーシャ自身も優しく、暖かくなれるように思えた。

サーシャの国での夜8時から10時頃。日本の朝4時から6時頃の2時間が二人の練習する時間となった。

毎朝6時頃から訓練が始まるため、龍人は道着に着替えて道場でサーシャとの練習することにした。

毎朝、早朝から練習することがきついとは全く感じなかった。

むしろ楽しくさえあった。

ただ疲れて就寝時間が早くなったのは仕方あるまい。

道場で練習すると、なぜだか安心できた。

道場は思念で守られていると、後になって知らされた。

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