第11話 龍人の高校時代2(受け継がれるもの)
守家一族は斎場での火葬はしない。
遺体を霊廟に運び弔うのが一族のならわしだった。
霊廟には、龍元と龍造、叔父の源治の3人しか入ることを許されなかった。
霊廟には御神体が奉られていることは知っていたが、御神体がどういうものか、霊廟の中がどのようなところかも知らされていない。
母を亡くした悲しみは龍人にとっても、絶えられないほどの悲しみだが、3人の妹、弟を自分が守らなければ、という思いでなんとかこらえることが出来た。
龍人が一番心配したのが父、龍造だった。
人は、悲しみに慣れることは無い。
二人目の妻も亡くした龍造の悲しみは、龍人よりも深かった。
後悔、無念、喪失感。
負の感情を隠すことさえ出来ないでいる。
これまで、こんな父を見たことがなかった。
どんな時も冷静で、毅然とし、感情を表に出すことを律していた父だった。
それでも龍人は、父が立ち直ることが出来ることを知っていた。
時間を要するだろうが。
3人の妹、弟は、当面カトリが母親代わりをしてくれる。
カトリの子、春名もいる。
3人が寂しい思いをしないよう、とてもよくしてくれる。
3人の妹、弟も徐々に元気になってゆくだろう。
龍人自身、アンナを亡くした喪失感を隠そうとしなかった。
この気持ちを共有してくれる人を欲している自覚があったのだろう。
サーシャにアンナの死を告げると、サーシャも悲しみ、泣いてくれた。
(私が能力に目覚め苦しんでいた頃、龍人が話しかけてくれたでしょ。あの時も、その後も私、心が不安定だったのよ。龍人と交信しているときは安心していられたけど、それ以外の時はとても不安だった。龍人と交信しているとき、時々女の人を感じることがあった。私が不安でいるとき、その人が私を包み、導いてくれた。心の休まる歌を聴かせてくれたりして、暖かい心が流れ込んでくるのを感じることが出来たわ。そして、この力の源は優しさだって。誰かを思いやる心を持ち続ければ、私自身も、周りのみんなも幸せになれるって教えてくれた。そういった力の使い方や、考え方とかいろいろ。私が落ち着き、心が安定するまで、ずっと)
(その言葉。…アンナ母さん?)
(そう。今の私が明るくいられるのはアンナさんのおかげ。アンナさんの心は私の中に生きている。私の中でアンナさんが生きている様に、龍人の中でもアンナさんは生きているわ。それは確かなことなのよ)
(ありがとう、サーシャ。おかげでなんとか立ち直ることが出来そうだ)
龍人は、サーシャがハグをしてくれているように感じた。
そこには確かにアンナがいた。
(私たちの力の源は優しい心。龍人が誰かのことを思いやり、救うために戦う限り決して負けない)
アンナ母さんの声が、龍人の心に染み込むのを感じられた。
昔、龍人が教え、一緒によく歌った”七つの子”と”赤とんぼ”と共に。
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