第10話 龍人の高校時代1(悲しみ)

 龍人、高校入学。

成績は優秀で、常に学年上位にいた。

早朝からの厳しい訓練で、学校での龍人は疲労のせいもあり物静かなおとなしい生徒と周りから認識されていた。

古武術と能力の修行のため、同年代の友人と遊ぶ時間は無く、学校に行っても教室内で挨拶態度の会話をする生徒はいたが、学校が終わるとすぐ家に帰り修行をするという毎日であった。

古武術道場の息子であることと、街の住人から”白髪様”と呼ばれる告守神社の子供であるため、友人たちもそんな龍人を自分たちとは違う家庭環境にあるものと認識し、距離を置ていた。

中には付き合いの悪いつまらないやつと、思っている生徒もいたようだ。


 テレパスの接続、切断とその時の記憶の完全消去をマスターした龍人は、叔母のカトリから

「龍人、あなた能力を持たない、普通の人の友達を作りなさい。これは大事な事よ。あなたのこれからの人生にも、一族のお役目のためにも」

と、言われていたのだが、普通ではない能力者の自分が、能力を持たない普通の同級生と深く接して良いものなのか、どう接したら良いのか判らずにいた。

学校が終わればすぐに家に帰って道場の門下生が来る前に訓練をしなければならないし、妹や弟の面倒を見無ければならない。

サーシャとの交信もしたい。

他の生徒は放課後に友達同士集まって行動している様なので、学校にいる時間帯だけの友達の作り方が思いつかない。

それまで、わざと距離を置くよう心がけていたのだが、180度違うことをしなさいと言われても戸惑うばかりだった。

学校で授業を受けるのは好きだし、街の商店街や道場で一般の人と会話するのは普通に出来る。

これまで、同年代の人と親しくなる事など特に必要性を感じなかったから戸惑うばかりである。

ただ、時間ばかりすぎてゆく。


 龍人、高校2年生。

学業は順調であったが、友達作りが上手くいかない中、それどころでは無い出来事が起きた。

アンナが出産するのだ。

それも双子と言うことだ。

守谷家の歴史の中で、双子の出産は初めてのことである。

もし、双子で無ければアンナの能力の高さなら、無事でいられるだろう。

しかし、双子となると二人目の妻をも亡くす事にもなりかねない。

そうなったとき、その悲しみ、苦しみに堪えることが出来るのか。

妻が無事でいられる手段があるなら、選ぶべきか。

龍造は悩み、そして、アンナを思い、二人の内、一人を諦めるという苦渋の提案をしたが、アンナは、せっかく授かった命、二人共私たちにの子供、家族よ。

二人とも産みたいと、龍造の提案を断り双子の出産を決めたのだった。

双子の妊娠と出産は、能力の高いアンナでも、大きな負担だったようだ。

幸い双方無事生まれ、龍歩、杏子と名付けられた。

ロシア語で愛のリュボーフィ、天使のアンギルをもじってつけられた名だ

その名の通り、愛に溢れて育てられ、天使のように純真で可愛い子供達だ。

アンナは体調の優れない日々が続いた。

それでもアンナは、極力子供たちと接し、ハグは続けてくれた。

そのたび、徐々に弱ってゆくのを感じ、龍人はやるせなかった。

愛子は出来もしないのに、弟と、妹の面倒を見たがった。

一年後にはおしめの交換くらいは出来るようになった。

もっとも、初めのうちは龍人が手伝ったのだが。

することがなくなると愛子は、龍人と遊ぶことが日課となった。

体力は上がり、能力もかなり高度になった。

それなのに、アンナを元気にしてあげることが出来ない。

自分たちの能力は万能では無い。

それはどうしようも無いことだ。

ただただ、元気になるよう祈る日々が続いた。

周囲の祈りもむなしく、双子を出産した六年後、アンナは他界した。

体調の優れない中、龍人や愛子、龍歩、杏子には、そんな素振りなど見せようとしなかった。

家事、育児、そして一族に尽くしてくれた。

「みんなに愛され、幸せでした。人を思いやる心を忘れずに、みんなも幸せになってね」が、最後の言葉だった。

愛子、龍歩、杏子の3人はアンナにしがみつきながら泣き、離れようとしなかった。

叔母のカトリが3人の心のケアをしてくれた。

いとこの春名にもよくなついていたため、春名も気にかけてくれていた。

愛子、龍歩、杏子もなんとかこの悲しみを乗り越えてくれるだろう。 

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