第12話 龍人の高校時代3(友人との出会い)

 アンナの死をなんとか乗り越えることが出来たある日。

「守谷君、古武道を習っているんだよね」

同級生の山田君が声をかけてきた。

「家元だから物心つく頃からね」

「今から習い始めても大丈夫かな」

「遅くは無いよ。警察官になったから入門したって人もいるから」

「僕、強くなりたいんだ」

顔を腫らし、青アザの出来た体を見れば理由は明白だった。

「…ケンカで勝つためってのが理由なら、師範が入門させないよ」

「でも、このままいじめられるのはいやだ。僕は自分を変えたいんだ」

真っ直ぐに龍人の目を見つめる。

自分に対する理不尽なものに、立ち向かう決心をしたようだ。

「体験入門ならさせてくれるかもね」

「それでいい。頼むよ」

「じゃあ、放課後付いてきて」

「ありがとう」

放課後、山田を連れて道場に行く。

「体験入門希望者を連れて来ました、いいでしょうか」

父はちらっと二人を見、

「余っている道着があるから着替えてきなさい」

「判りました。こっちだよ、山田君」

着替え終わった二人は、他の門下生の邪魔にならないよう道場の隅で準備運動を始める。

「僕の真似をして体をほぐすんだ」

「うん…。ぐっ、結構きついね」

「普段使わない筋肉を伸ばしたり、使ったりするからね。はじめだけだよ。じゃあ準備運動はこのくらいにして、まず、簡単な型からやろうか」

打ち込み、けり、受け、いなしの型練習をする。

「初日にこれだけするの?結構きついけど」

「これから毎日、朝晩、三十分でいいから続けて見て。体験入門だから毎日は指導できないから、来週又きて。その時の様子を見て次の段階に進むから」

一週間がたち、山田は道場に再びやってきた。

「じゃあ、教えた型をやってみて。」

動きのぎこちなさはなくなり、真剣に練習したことが判る。

「OK、じゃあ流流舞といって、ゆっくり組み手をするから覚えた技で僕に対応して」

山田には間も動作も技のつなぎも全然出来ていない。

龍人が言葉で指示を出しながらなんとかそれらしくしてゆく。

山田は三十分後には汗だくで息も荒くなっていた。

「今日はここまで。来週までに今日の技の流れを頭に入れてきて。イメージしながら実際に体を動かすことを忘れずにね」

一週間がたち山田が道場にきた。

「じゃあ、流流舞ね。行くよ」

見違えるほどスムーズに付いてくる山田。

「少しずつ早くするよ」

だんだんと早くなる組み手。

他の門下生も二人の練習に集まる。

おお、と声が上がる。

思いのほか山田には才能があったようだ。

十五分後、

「やめ、すごいね。三週間でここまで出来るなんて、かなり練習したね」

山田は汗だくなのは変わらないが、息はそれほど上がっていない。

「これだけ出来れば十分目的は達成できるよ。ただし、相手の攻撃を受け流すだけ、山田君が攻撃しては絶対だめだ。約束してくれるかい」

「判った、ありがとう。来週も来ていいかい」

「もちろん」

山田にタオルを渡しながら龍人は笑顔で答えた。

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