第36話 もう一つの可能性

数日後。

送還の儀。


クラスメートが一同に集められ。


セライアとの約束は、昨晩果たした。

本当に事務的に・・・


正直、セライアの事は相当後ろ髪引かれるのだが。

セライアの側にその気が無い。

この世界に残っても、俺もセライアも苦しむだけだ。


セライアは、魔王を倒して以降、手の平を返したように絡んで来なくなった。

決して悪い扱いでは無いのだが。

誘う様な態度は一切なくなった。

まあ、いつ子種を渡すか、明示したから、その必要が無くなったのだろうね。


今朝別れの挨拶をした時も、魔王を倒した感謝こそすれ、別れの悲しさの様なものは微塵も無い。

・・・俺とは対照的に。


「みなさん、本当に有り難うございました。それでは、約束通り送還させて頂きます」


サラ王女が頭を下げ。


魔導士が詠唱を開始。


俺達の足元の魔法陣が光り出し・・・


俺達の身体が、足から順に消え・・・


その瞬間、影が走り込み。


セライア?!


セライアが俺の頬を持ち──


その笑顔には、涙が伝い。


唇を奪われ、そして──


意識が暗転──


俺達は、元の教室へと戻ってきた。



あれは、何だ。


最後のあれは・・・何だ。


そもそも・・・何故、セライアは泣いていた?



あり得ない話だが・・・


本当は、セライアも俺の事が・・・?

それで、俺の気持ちに気付いていたから。

俺が元の世界に戻らず、あちらの世界に残ると言い出さない為に・・・わざと気が無い演技を・・・?

あまりにも演技が完璧過ぎて、最早真実は分からないが。



だが。

最後の行為や、涙の理由わけが説明つかない・・・


異世界の話題で盛り上がるクラスメート。

それは耳に入ってくるが、その内容は理解できない。

頭の中では、ぐるぐると、セライアの事が駆け巡り。


その後、何があったか良くは覚えていない。

俺はいつの間にか帰宅し。


泣いた。

声を上げて泣いた。

愛しい人との別れを。

永久とわに失われた、もう一つの可能性せかいを。

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