第26話 魔王の嫁

時間停止。


ドラゴンを召喚。

魔族達を焼き尽くす。


時間停止解除。


「逃げ──」


驚愕の表情で俺に向けて叫んだセライアが──


「何故?」


「・・・え?」


ぱちくり、と瞬きするセライア。

ようやく、魔族が全部溶けた事に気付いたらしい。


「・・・助かっ・・・た?」


「ああ、燃やしたぞ」


さあ、いつもの通り、好きなだけ妄想を騙ると良い。


がっ


セライアが俺に抱きつく。

おいおい、感動の演出か?


・・・?


セライアが、震えている。


「セライア・・・?」


「──った」



「怖かった・・・怖かった・・・よ」


セライアが、俺に抱きつく力を強める。

・・・泣いて・・・いる?


「連れ去られると思った。自由を奪われ、もう自分ではいられないんだって思った。もう駄目だと思った」


震えている。

そっと、セライアを抱きしめ。


「変なおっさん共は、俺が燃やした。だからもう、大丈夫だ」


「ん・・・」


魔物が、撤退してく・・・


ゴウッ


密度が大きかった部分を、ドラゴンで燃やしておく。

ドラゴンで簡単に燃やせるあたり、そう強い奴等では無かったみたいだが。


らしくないセライアを抱きしめ──


ああ、本当にらしくない。

こんな弱気で儚げなセライアなんて──


愛しい。

普段ドキドキさせられている体温が、柔らかい身体が。

いつもの比ではないくらいに愛しい。


ああ、そうか。

これが、好き、って事なんだな。


俺は、そんな事を考えていた。


雨が、頬に当たる。

天井に空いた穴から、降り出した雨が入り込む。


魔王軍。

圧倒的な存在。


少し尖兵を動かしただけで、この惨状。

城にも、兵にも・・・そして、街にもかなりの被害が出たようだ。


クラスメートは無事だろうか。

サラ王女は無事だろうか。

俺の知っている人達は無事だろうか。


ようやく、セライアの嗚咽が収まりかけている。


さて、此処がセライアの研究室?らしいが。

何をしていたのか知らないが、もう用事は済んだのだろうか?


--


泣き止みはしたものの、すっかり大人しくなったセライアを連れ、宿屋に戻る。

繋いだまま離さない手が、じっとりと温かい。


認めよう。

俺はセライアの事が、好きらしい。


だが。

その想いは一方通行だ。


セライアに、恋愛感情は無い。

性欲は有るらしいが・・・


「あの・・・有り難う」


セライアが、俺を見上げ、告げる。


「気にしなくて良い。それより、何があったんだ?」


なんか、魔族っぽいおっさん達と話し、セライアが怯えていた。

それしか把握していない。


「うん・・・四天王ラーピッド、四天王ドワルゴ・・・そして、新生合成魔獣に、ラーピッド配下、虎の子の不死軍団・・・更には、新生された空中要塞種の合成魔獣・・・全戦力の半分、いや、ひょっとしたら7割を超える戦力を投入したのかも知れない」


うん、いつものセライアクオリティ。

でも、今聞きたいのは、フレーバーテキスト的な創作ではなく、あの部屋で何があったかなんだけど。


「あの見掛け倒しのおっさん達と、何を話してたんだ?」


「見掛け倒しって・・・ラーピッドは、私を拉致しようとしたんだ。魔王の嫁とする為・・・」


「なるほど。セライア、可愛いからな」


「か・・・可愛いって」


セライアが俺のお腹に頭突きをする。


「この際、私の容姿は関係無い。私が持つ魔力量、それが魔王の目的・・・魔王の子を産めば、かの魔老にも届くと、そう考えているらしい」


かの魔老って誰さ。

事実と創作が混じっていて、良く分からない。

まあ、魔王がスケベオヤジって言うのだけは分かった。


「国を滅ぼされたくなければ、一緒に来る様に言われて・・・自由を奪われ、自分の未来が奪われ・・・それが怖くて・・・」


セライアが、俺に手をまわすと、強く抱きつく。


ぽふぽふ


セライアの頭を撫でつつ、


「もう大丈夫だ。何度奴等が来ても、俺が守ってやる」


本当に強い奴が来たら無理だけど、ドラゴンの一撃で溶ける程度の雑魚なら、問題無い。


「・・・有難う」


セライアが、うつむいたまま告げる。


さて。

今日は疲れたし、さっさとお風呂に入って。


「じゃあセライア、脱がすぞ」


「ふえええ?!」


不意にセライアが叫ぶ。

どうした?!

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