第19話 暴食

「・・・だから、適当にやっておけば良い筈なのに・・・わざわざ私を呼びつけて、色々泣きつかれて・・・凄く面倒なんだけど」


セライアの溜息。

ああ、セライア、お前もか。

セライアの立場は良く分からないが、恐らく、賢者的な立ち位置なのだろう。


「マサシ、ちょっと身体を揉んでよ。もうくたくたなんだよ」


「お風呂からあがってからな」


「一緒に入れば良いのに」


「襲われそうだからな」


「うん、襲いそうだね」


「却下」


くそ、良い匂いがするじゃないか。


--


「いよいよ今夜か・・・まあ、私はのんびり隠れているよ。人前に出るのは好きじゃ無い」


「俺はモブその1となって、ひたすら暴食かな」


「キミがエスコートしてくれる、っていうのも魅力的なんだけどね。流石に、かの国の人達の前には姿を見せたくない」


「どっちにしろエスコートはしないぞ」


暴食オンリーだと言っているだろ。


ふと、セライアが真面目な顔になると、


「キミの強さなら大丈夫だとは思うけど、一応注意して。参加者の中で最高位は・・・姫騎士エルゥ。単独で霊獣と戦って引き分ける、とさえ言われる伝説の人物・・・」


何処かで聞いた名前ですね。

まあ、英雄の名前を自分の子供に、というのも良く有る話か。


「彼女自身、王族の一員・・・わざわざ人間界に出てくるなんて・・・名前を見た瞬間、飲んでいた紅茶を思いっきり噴き出したね」


「片付けが大変そうだな」


「片付けはメイドがするからどうでも良い」


横暴だ。


「まあ、キミは近付かない方が良いとは思う」


セライアが、真面目な声でそう言った。


--


忠告は守った。

モブとして溶け込みつつ、食事をゲットしては、陰に隠れて食べる。

探査スキルを薄く発動して警戒しつつ・・・


ちなみに、エルブンって、エルフの国だったらしい。

使節達、みんなエルフ。

エルゥはあのエルゥ。

他にも何処かで見た顔。

まあ、あいつらなら、いきなり刺される事はなさそうだ。


・・・ん?


メイドが1人、こそこそと怪しい動き・・・というか、凄く見た事があるエルフだ。


「・・・何をやっているのですか?」


「ひああああうう?!ち、違うんです、これは・・・って」


涙目で叫んだメイドエルフ──というか、少し前に助けた王女様っぽいエルフが、こっちを見てほっとした様な顔をする。


「勇者様、会いたかったです!」


「いや、大山君ならあっちにいますよ。紹介しましょうか?」


大山君。

勇者の職業を発現した生徒。

ただし、レベルのせいで、香菜山の方が圧倒的に強い。


「貴方様は私の勇者様なんです!」


その、『私の勇者様』というのは職業的事実には反するんだが。


「田中さん、此処におられたんですね」


王女様がやってくる。

これは・・・エルフの王女様の紹介した方が良いのか?

いや、最高位がエルゥって事は、お忍びで来ている感じか?


「勇者様・・・この方は?」


「俺は勇者じゃないですよ。この方は、このグロウリア王国の王女様」


「あ・・・初めまして、この度はお招きに預かり、有り難うございます」


エルフの王女様が、慌てて頭を下げる。


「いえ、こちらこそ、お越し頂き有り難うございます。私は田中さんの紹介通り、この国の第二王女、サラ=トラムス=グロウリアです。本来は第一王女たる姉がお迎えするところ、失礼致します」


王女様って、第一王女じゃなかったのか。

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