14 ポケット

「これは掘り出し物だぞ」

 鑑定を終えた店主が示したのは、少し不思議な形の水筒だった。

 よく見る筒状のものではなく、平べったくて少し曲がっているそれが何なのか分からず、しかし状態が良かったので、あまり役には立たなさそうだと思いつつも拾ってきたものだ。

「ねえ、何なのこれ? 変な形だし、やけに小さいし」

「こいつは酒を入れる道具さ。それも気付けになるような強いヤツだ」

 店主曰く、この湾曲したフォルムはポケットに入れることを想定して作られたから、らしい。

「旧時代の賞金稼ぎどもは景気づけにこいつをぐいと呷って、それから厄介事に挑んだのさ」

 なるほど。要するに『かっこつけの道具』というやつだ。

「酔っ払って仕事したら危ないじゃない」

「酒を呷らなきゃやってられないような、クソみたいな仕事もあったんだろうさ」

 そう嘯く店主とて『崩壊後』生まれだ。旧時代のことは資料でしか見たことがないし、その資料も散逸していてまとまりがない。そして、人づてに伝えられた伝承は、史実も空想も虚構も全部ごちゃ混ぜの、まるでお伽噺のような代物に成り果てている。

 だから、店主が語る『賞金稼ぎ』が、私達のような『屑拾いスカベンジャー』とどのくらい似通っているのかなど、勝手に想像するしかないけれど。

「嬢ちゃんもいっぱしの『屑拾い』になりたいなら、格好から入ってみるのも一つの手だぜ?」

「じょーだん。そんな金があるなら、装備をもっと良い物に買い換えるよ」

 廃墟探索はいつだって危険と隣り合わせだ。『屑拾い』になって一年、そろそろ防具や武器も傷んできた。それが掘り出し物だというのなら、いい金になるだろう。

「それを合わせて、全部で幾らになる?」

「売っちまうのかい? もったいないね」

「酒を飲まない私が持ってたって、宝の持ち腐れでしょ」

 世界が崩壊して、社会も秩序もめちゃくちゃになった。今必要なのは嗜好品ではなく、自分の身を守る手段だ。

「次は西の廃墟都市に行くんだ。もっと強力な装備が欲しいんだよ」

「シンジュクに? まだ早くはないかね」

 先日、閉鎖されていた地下街への入口が見つかったため、地上を行くよりははるかに安全になったとはいえ、あの辺りはまだモンスターが跋扈する危険地帯だ。そのせいで未踏エリアも多く、『屑拾い』にとってはまさに宝の山でもある。

「例の地下街、内部が複雑すぎて、まだ完全攻略されてないんだって。あそこなら、私みたいな新米でもチャンスはあるでしょ」

「まあな、チャンスは誰にだってある。それを生かせるかどうかは腕次第だがね」

 パチパチと算盤を弾く店主。そうして提示された金額は、思いのほか高額だった。

「こいつはな、俺の憧れだったのさ。だから、これだけは俺個人として買い取らせてもらう」

 鼻をこすりながら、どこか照れ臭そうに弁明する店主。

「次は、こいつに入れて飲めるような、強い酒を発掘してきてくれよ。ウォッカかテキーラ、ジンでもいいな」

 酒の種類には詳しくないが、例の地下街には店舗もたくさんあったようだし、地上はかつて一大歓楽街だったそうだ。酒の一本くらいなら、比較的簡単に見つかるだろう。

「はいはい。その時は高値で買い取ってよね」

「勿論だとも」

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