02 手紙
町外れの骨董店には、毎日のように手紙や荷物が届く。
先日までは、息をするように居留守を使う店主と、何が何でも受け取らせたい配達員との間で激しい攻防戦が繰り広げられていたが、店番を雇ってからはそんな光景も見られなくなった。
「郵便だぞー」
今日も大量の配達物を抱えてやって来た配達員オルトに、店の前を掃いていた看板娘は、ぱあと顔を輝かせた。
「いらっしゃいませ、なのです!」
飛びつかんばかりの勢いで駆け寄ってきた少女を制して、抱えていた手紙の束を押しつける。
「ほらよ、お前さんにだ」
「私に? ですか?」
紫色の双眸をぱちぱちと瞬かせて、手紙の束を確かめる少女。
「世界樹の街・十二番街 黄昏通り三番地 ユージーン骨董店 リリル・マリル様――。確かに私宛ですが、一体どなたから……?」
差出人に目をやって、思わず息を呑む。
『ユーディス』『ノーマ』『ジャック』『ラルゴ』『ルカ』――記されていたのは、この街にやって来てから知り合った、たくさんの人々の名前。
「ジャックがな、お前宛の配達がないから、寂しがってるんじゃないかってさ」
毎日のように届く荷物はすべて店主宛だ。それを仕分けるのが彼女の仕事だが、時折寂しそうな表情を浮かべていることは、オルトも気づいていた。
すべての過去を捨て去って『世界樹の街』にやって来た彼女には、手紙を送り合う
それなら口実を作ってしまえば良いのだ、というのがジャックの言い分だった。
というわけで、方々に声をかけまくった結果がこれだ。思ったより集まって驚いたが、どうやらあちこちに隠れファンがいるらしい。見覚えのない名前もちらほら混ざっている。
「まあ、ユージーンやオルトも書いてくださったのですね!」
わざと下の方に混ぜておいたのに、目ざとく見つけて歓声を上げる看板娘に、気恥ずかしそうに頬を掻く。
「毎日会ってるんだから、書くことがないって言ったんだけどよ」
こういうのは気持ちだよ、と諭してきたのは意外にもジャックではなくユージーンで、あのぐうたら店主にそう言われてしまっては書かないわけにもいかず、一晩悩み抜いて書いたのは、たったの一行。
「『今度、また海に連れてってやるよ』――。はい! 楽しみにしているのです!」
「往来で読み上げるな! ほら、他の郵便物もあるんだから中に入って受け取ってくれ!」
看板娘の背中をぐいぐい押して、古びた扉をくぐる。
「見てください、ユージーン! 私宛のお手紙がこんなに!」
「良かったねえ」
長椅子で昼寝を決め込んでいたぐうたら店主は、誇らしげに手紙の束を掲げる看板娘に、うんうんと頷いてみせた。
「……ところで、ユージーンからのお手紙は、何と書かれているのですか……」
「なんだこれ、エルフ語か……? 全然読めないな……」
「ああ、ごめん。つい古代語で書いちゃった」
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