十一月のお話 Novelber 2019
小田島静流
01 窓辺
木漏れ日射す窓辺に、クッションを二つ。
傍らに読みかけの本を積み上げて、あとはただゆるりと過ごすのみ。
窓枠に腰を掛けようが、毛布に包まってココアを啜ろうが、行儀が悪いと叱る人は、ここにはいないから。
できる限りの悪行を尽くして、永久の休日を楽しもう。
『なにが永久の休日だ。とっくに飽きてるくせに』
窓の向こうから、呆れ声が飛んでくる。
『そんなに暇なら手を貸してくれないか。押しつけたい仕事が山のようにあるんだけど』
「おやおや。年がら年中『準備中』の骨董店に、そんなに仕事があるのかい?」
『……少なくとも万年引きこもりの賢者様よりは忙しいつもりだよ』
むっとした声に、笑いをかみ殺す。
世界を滅ぼして《空の果て》に引きこもった私と、世界を守って《地の果て》で惰眠を貪る彼。
はてさて、どちらが罪深いのやら。
「お生憎様。私はもう、世界と関わらないと決めたのさ」
『こうやって覗き見するのは、関わってるうちに入らないと?』
「そりゃそうさ。こんなの、鏡に向かって呟いているようなものだ、世界はこんなことで揺らがないとも」
関わってしまえば、また壊してしまう。そう分かっていて手を出すほど愚かではない。
二度も三度も同じ過ちを繰り返すのは、さすがに寝覚めが悪いというものだからね。
「それはそうと、この間とても珍しい物を手に入れたんだ。今度そっちに持っていくから、よろしくね」
『世界の果て』には、時折不思議なものが流れ着く。大抵は他愛もないガラクタだが、時折珍しいものが混じっているので、こうやって専門家のところに持ち込んで鑑定してもらうことにしている。
『……そうやって《影》を使ってこっちに顔を出すのは、主義に反しないのか?』
「本体が《塔》から出ていなければ問題ないだろう? それじゃ、よろしくね」
言いたいことだけ言って、窓を閉める。何やら向こうで喚いている声がするが、気にしないでおこう。
何度も読み返した本を手に取って、意味もなく頁をめくる。
木漏れ日射す窓辺。心地よい梢のざわめき。
彼の真似をして、惰眠を貪ってみようか。
きっと、良い夢が見られるに違いない。
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