30 真っ白い

 お姫様は純白の花嫁衣装を着て、愛しい王子様のもとに嫁ぎ、二人は末永く幸せに暮らしたのでした。めでたしめでたし。


 そんな童話の結末をこよなく愛していた彼女――世継ぎの姫ライラ・ロジーナが戴冠式のために選んだのは、まさにその『純白のドレス』だった。

「私は国家と結婚するのだ」

 そう公言して憚らない彼女だ、ある意味『有言実行』なのかもしれないが、これを好機とばかりにリボンやレース、ビーズなどをふんだんにあしらい、絢爛豪華な衣装に仕上げたのは、いかにもばあやさんらしい。

「おかしいな。白なら質素になると思ったのに」

 案の定、彼女はドレスの仕上がりに驚きを隠せないでいる。こればかりは、ばあやさんの執念を計算に入れなかった彼女の失策だ。

「これは想定外だったな。どう思う、テオ?」

 そう問われて、思わず言葉を失う。

 なんと答えたら、彼女は納得するだろうか。

「率直に言ってくれ。お前の言葉なら何だって、私は受け止める」

 なんとも頼もしい言葉とは裏腹に、その表情はどこか不安そうで。

 初めて出会ったあの日、父王のマントに隠れてこちらを窺っていた時と、何一つ変わらないその様子に、ほっと肩の力が抜けた。


「とても似合うよ、ジーナ」


 それが、たとえ手の届くものでないとしても。

 ――いいや、手が届かないからこそ、それはきっと美しくて。

 だからこそ僕は心から言えるのだ。


「まるで氷の女神様みたいだ」

「それは褒めてるのか?」

「最大限に褒めてるんだってば」

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十一月のお話 Novelber 2019 小田島静流 @seeds_starlite

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