22 冬将軍

 第三次世界大戦を終結させたのが、愛や努力などではなく、たまたま訪れた『氷期』だった、というのは実に皮肉な話だ。

 戦争どころではなくなった人類は否応なく一致団結することを求められ、新天地を求めて宇宙へと躍進せざるを得なかった。風雪に耐えるドーム都市や地下都市群も作られはしたが、全人類を収容することなど不可能だったからだ。


「結局のところ、人間ごときが大自然の驚異に勝てるわけなかった、ってことだな」

『当然ダナ』

 モニター越しに見る地球は白く凍りつき、かつて『青い惑星』と呼ばれた形跡は何処にも見当たらない。

「氷河時代、かあ。雪男だの雪女だのには暮らしやすい時代だろうなあ」

『冬将軍ガ冬元帥ニらんくあっぷシテルカモナ!』

 ケケケ、と似たような笑い声を上げる二人に、食事トレイを携えて戻ってきた新人クルーは、むむ、と眉をひそめた。

「二人とも、おかしなことばかり言っている。雪男も雪女も、その存在は科学的に証明されていない。それに『冬将軍』は比喩的表現で、まして昇格などしない」

 つい半月ほど前『海賊放送局』の仲間入りを果たしたばかりの彼女は、まだ二人の『ふざけあい』に慣れていない。故にこうして、生真面目すぎるツッコミを入れてくる。

「なに、これは言葉遊びってやつさ」

『思考回路ハ使ワナイト劣化スル。ますたーノ老化防止ニ付キ合ウノモ、さぽーとAIノ勤メダ』

「何ぃ!? オレ様はまだ、ぴちぴちの二十代だぞ!」

 途端に口喧嘩を始める二人に肩をすくめて、新人クルーは簡素な昼食が載ったトレイをどん、とコンソールの上に置いた。

「レオン。早く食べないと、あの地球のように冷え切ってしまう」

「おおっといけねえ、折角温めてきてくれたんだもんな」

 慌てて口喧嘩を中断し、レオンは「いただきまーす!」と勢いよくグラタンにフォークを突き刺した。

「……オーロラ。これ、中がまだカチカチだ」

「自動調理器具の不具合と推測。温め直してくる」

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