04 恋しい

 《果ての塔》には何でもある。一生かかっても読み切れないほどの本、南の島の珍しい果実。王侯貴族しか使えない豪華な調度品。欲しいものはすべて揃えた。ここから逃げ出してしまわないように。

 ただひとつ、存在しないもの。それは『他人』だ。


「わざとだよ、わざと」

 当然だろう? と賢者は笑う。

「自分以外の存在が傍にいるなんて、かつての私には耐えられなかったんだ」

 だからこそ一切を排除して、世界の果てに引きこもった。世界から隔絶された場所で、たった一人。欲しいものは何でも魔法で生み出せる。退屈なんかしないさ、と息巻いて。


『結局、人恋しくなったんだろう? だからこうやって、意味もなく連絡してくる』

 鏡の向こうから響く冷ややかな声に、いやだなあ、と拗ねた声を出して。

「意味ならあるさ。君と話がしたかったんだ」

『生憎だが、こっちは忙しい。他を当たってくれ』

「つれないことを言うなよ。たまには老人の昔話に付き合ってくれたって良いだろう?」

『そんなに元気な老人がいるか。こっちは弟子が増えて忙しいんだ。じゃあな』

 ぶつり、と魔法が切れる。向こうから切ることは出来なかったはずなのだが、いつの間にか『鏡を伏せる』という強制遮断方法を思いついてしまったらしい。これは困った。何か別の連絡手段を講じなくては。

「人恋しい、ねえ」

 気づかないふりをしていた感情が、胸の奥底からぐんぐんと湧き上がってくる。

 ――ああ、きっとそうだ。私は、人が恋しい。

「今更、だけどね」

 手放してこそ分かるものがある。切り捨てたからこそ気づけるものがある。

 気づいてしまったからといって、それが叶うわけでもないけれど。

 まあでも、開き直るくらいは出来るかもしれない。



「……というわけで新しい通信魔法を考えてみたんだ! 《月鏡》って言ってね、月の光を媒介して――」

『……さては暇だな?』

「あー! 待って! 窓を閉めないで!」

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