05 トパーズ

 猫の名前といえば、ミケだのトラだの、毛並みから取られることが多いようですが、その法則に則るならば「クロ」と呼ばれるべき私を、ご主人は「トパァズ」と名付けたのです。

「お前の瞳は闇夜に光る宝石のようだ。故に私はお前をトパァズと呼ぼう」

 そう仰って、優しく頭を撫でてくださったあの日を、私は一生忘れないでしょう。

 近所の猫どもには「なんでぇ、随分とハイカラな名前をつけられたもんだなァ」と揶揄からかわれますが、ご主人がつけてくだすった大切な名前なのですから、異論があるはずもございません。

 何より、ご主人が私を呼ぶ時の、あの「トパァズ」という柔らかな声。ビオロンを奏でるような滑らかな響きに、すっかり魅了されてしまったのです。

 ああ、ご主人。私の言葉はあなたに届かなくて、感謝の思いも、ご飯の催促も、すべて「うなあん」という鳴き声にしかならないけれど。

 私がこの名前をとても気に入っているということだけは、どうか伝わりますように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る