06 当日券

 黄昏に染まる街を散策していたら、古びた映画館を見つけた。

 西日に照らされる看板には今週から公開が始まった最新作に並んで、タイトルだけは聞いたことがあるような往年のSF映画のポスターが並んでいる。

「もうじき上映時間ですよ」

 看板をしげしげと見つめていたせいか、窓口からそう声を掛けられて、思わず「大人一枚ください」と言ってしまった。

「はい、どうぞ。空いてますのでお好きな席にどうぞ」

 当日券、と書かれた手書きのチケットに、席番号は記されていない。事実、五十席ほどしかないミニシアター内はガラガラで、自分の他には老夫婦が一組と仕事帰りのサラリーマンしかいなかった。

 折角だから、ど真ん中の席を選んで座る。ほどなくしてシアター内の照明が落ち、しばらくはお決まりのCMタイムかと思いきや、唐突にアナウンスが流れ出した。

『当館はリアル体感型シアターです。映画の世界を存分に味わってください。それでは、どうぞ』

 スクリーンに浮かび上がる、今はなき配給会社のロゴマーク。

『遠い遠い、遙かな宇宙の片隅で――』

 重厚なナレーションと共に、荘厳なテーマ曲が流れ出したかと思えば、体がふわりと宙に浮き、宇宙空間を漂い出す。

 そうして目の前に流れる、怒濤の「あらすじ」。

「ここもリアル体感なんだ……」

 滝のように流れ落ち、時折零れて飛んでくる文字列を右に左に交わしながら、必死に銀河帝国の興亡を頭に叩き込む。

『そして物語は、辺境惑星アルバから始まる――』

 迫り来る緑の惑星を睨みつけ、やれやれと独りごちる。

「……見る映画、間違えたかな……」

 銀河の存亡を賭けた戦いを乗り越えて、無事に映画館から出られるのか。それが問題だ。

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