18 毛糸

 風に秋の匂いが混じり始めてから、骨董店の看板娘は町外れに住む占い師のところへ通い詰めている。

 配達ついでにこっそり覗いてみたところ、どうやら編み物を教わっているらしい。

 初心者はまず簡単なものから、という教えなのだろう。余りの毛糸をひたすらに継いで編み続けているそれは、なんというか――。


「蛇?」

「違います!! マフラーなのです!」


 半月ほどかけてようやく編み上がった色とりどりのマフラーは、どこからどう見ても蛇の編みぐるみだったが、看板娘は顔を真っ赤にして、人差し指を突き合わせる。

「編み物は力加減が難しいのです! なぜかくるんと丸まってしまうのです……。でも、見た目はともかく暖かいと思うので、セーターが編み上がるまではそれを使ってください」

 なるほど、気温が落ちてきた途端、あからさまに動きが鈍くなった店主の防寒対策として、せっせと編んでいたらしい。

「うん。ありがとう。大事に使わせてもらうね」

 いそいそとマフラーを首に巻く店主。はたから見ると大蛇に巻きつかれているようにしか見えないが、まあ本人達が幸せそうならそれでいいのだろう。

「良かったな、おっさん。じゃあ俺はこれで」

 配達へ向かおうと踵を返した瞬間、ぐいと袖を引かれる。

「オルトの分も編んだのです!」

「うっ……」



「お帰り、オルト! ……その蛇どうしたの?」

 めざとい同僚の指摘に、げんなりと首を横に振る。

「……聞くな」

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