17 通信士

 『バーミリオン』は偵察用の小型艇だ。改装にあたりステルス性能とエンジン回りを重点的に強化した結果、居住性が犠牲になり、特にコックピット回りが非常に狭くなったため、搭乗員には小柄な二人が選抜された。

「なんでオレが通信士なんだよー!」

「まだ言ってるのかよ、レオン。大体、シミュレーションでさえ、発艦できずに格納庫内で自爆してマイナスの点数を叩き出してたヤツに、実機の操縦なんて任せられるもんか」

 呆れ顔の操縦士は、燃えるような赤髪をかき上げながら、手際よく発艦準備を進めている。

『警告。無駄口ヲ叩カズ、早急ニ通信機器ノ最終ちぇっくヲ開始セヨ』

 搭載AIにまで突っ込まれて、ぶうぶう言いながら後部のシートに体を押し込む。

「覚えてろよ、アーサー。いつか絶対、そっちのシートに座ってやるんだからな!」

 前方の操縦席に向かって舌を出せば、二つ年上の『先輩』は振り返りもせずに「おう、その日を楽しみにしてるぜ」と答えた。

 十五歳のアーサーと十三歳のレオン。数百年の歴史を誇る由緒正しき宇宙海賊団『インフィニティ』、その中でも歴代最年少記録を樹立した若き二人組にとって、今日は記念すべき初仕事の日だ。

「システム、オールグリーン。こっちは行けるぞ。そっちはどうだ、レオン」

「こっちもOK! あとは発艦許可が出るのを待つだけだ」

 二人に言い渡された任務は周辺宙域の偵察。最近は辺境にまで銀河警察の巡回船がやってくるから、警戒するに越したことはない。

『管制室よりバーミリオンへ。二人とも、準備はいい?』

 スピーカーから響くオペレーターの声に、待ってました、と右手を突き上げる。

「いつでも行けるぜ!」

「あっ! お前、船長の俺を差し置いて!」

「なぁにが船長だ、お前はただの操縦士だろ!」

「そっちはただの通信士だろうが!」

 二人の小競り合いは日常茶飯事だったから、オペレーターもあえてそこには突っ込まず、淡々と定型文を読み上げた。

『管制室よりバーミリオンへ。発艦を許可します。良い航海を。……くれぐれも、無茶はしないでね』

「了解! バーミリオン、発進!」

 朱色の船体がふわりと浮き上がる。開放されたゲートの向こうは漆黒の宇宙空間。外に出れば光学迷彩機能が作動するから、この鮮やかな塗装を拝めるのは格納庫の中だけだ。

「さあ、ガンガン戦果を上げて、いつかは独立してやるからなー!」

「偵察艇でどうやって戦果を上げるんだよ。この船は武装してないんだぞ?」

『肯定。ナオ『体当タリスリャイインダヨ』ナドトイウ妄言ハ却下スル』

「まだそこまで言ってねえだろ! っていうかキング、お前どんどん発言が容赦なくなってないか?」

『肯定。搭乗員ノれべるニ合ワセルト、コウナル』

 ぶはっと吹き出した操縦士は、そりゃあいいと笑い声を上げた。

「お前の口の悪さが移ったんだな、レオン」

「アーサーだって、口の悪さは大して変わらねえだろー!?」

 コックピットに響き渡る、賑やかなやりとり。

『イイカラ黙ッテ仕事シロ!』

 少年海賊コンビを載せて、赤き偵察艇は宇宙をかける。

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