16 編み込み

 カラン、と乾いた音がして、扉が開く。

「いらっしゃい、ちょうど新しいのが焼き上がったところだ」

 焼きたてのパンを棚に並べていた髭面の店主は、やってきた客の姿におやおや、と目を瞬かせた。

「今日は随分とめかしこんでるじゃないか」

 揶揄からかうつもりはなかったが、いつも着の身着のまま出歩いている輩が、髪に色とりどりの花やリボンを編み込んでいれば、さすがに目を惹く。

「髪結いの練習台になってたんだよ」

 どこか得意げな様子に、すぐ合点がいった。

「ああ、なるほど。例の看板娘ちゃんだな。まだまだ練習が必要みたいだが」

 骨董店の看板娘リリル・マリルは美しい銀髪の持ち主だが、鏡を見ながら自分の髪を編み込むより、他人の髪で練習した方が手っ取り早い。そういう意味では、長い髪を持ち、じっとしていることを厭わない店主は、練習台としては打ってつけだろう。

「お祭りまでに、自分で結えるようになりたいんだって」

 裁縫上手な彼女だが、髪を結うのは使用人に任せていたらしく、首の後ろで一つに結わえるのがやっと、という状態からここまで来るのに半月かかった。とはいえ、コツを掴めばすぐに上達するはずだ。

「そりゃいい、きっと似合うだろうな」

「ああ、僕よりずっとね」

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